今シーズンからNPB2軍リーグに新規参加した「オイシックス新潟アルビレックスBC」
新規参加チームながらも、既存のプロチーム相手に白熱した試合を繰り広げているって、みなさんご存知でしたか?
今回はその舞台裏を支えるオイシックス新潟アルビレックスBCの総合企画部長 白石夏輝さんにお話を伺ってきました!
知っているとますます面白いアルビ野球!チームが直面する壁と挑戦をお伝えします!
白石 夏輝さん Shiraishi Natsuki
1990年生まれ、立教大学卒業。インターン期間を経て、新卒でオイシックス株式会社(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に入社。Oisix EC事業本部にて、プロモーションや顧客体験の設計を主導し、副本部長ならびにCXO(Chief Experience Officer)を歴任。2020年からは、Oisixの海外事業に従事し、上海と香港の現地法人の代表を務めた。2024年からオイシックス新潟アルビレックスBCで総合企画部長として、「日本一おいしい球団、日本一選手が育つ球団」の実現を目指して邁進中。
リーグ開幕から約1ヶ月が経ち
ーー早速ですが、まずはイースタンリーグが開幕して約1ヶ月、運営を統括されている白石さんの感想を教えてください。
白石夏輝さん:そうですね。まだまだチームには足りないものだらけではある一方、ポジティブな側面も多いため、いいスタートが切れていると感じています。
もちろん、それは新潟アルビレックスを元々運営されてきたスタッフや関係者の皆さんの知見あってのことですが、そこに加わったオイシックス・ラ・大地(以降オイシックス)としても”食”を起点にさまざまな貢献ができているのではないかと思っています。
例えば、オイシックス新潟アルビレックスBCが力を入れている「スタジアムグルメ」。
新潟県産の食材にこだわり、スタジアム向けにレシピ開発をしたメニューが並んでいます。このスタジアムグルメを目当てに球場にいきたいという声も増えてきていて、開発者としては嬉しい限りですね。
チームとしても、リーグ開幕当初は「オイシックスに負けたチームヤバい」と言われたりもしましたが、実際に試合数を重ねていくと防御率や打率のランキング上位に所属選手達がいたりして。最近は、野球ファンの方々からは、「オイシックス、意外と戦えている!?」「そこそこ強いんじゃない!?」といったリアクションをもらえるようになりました。
それらを踏まえると、「まだまだ足りていないことは多いけど、健闘できている部分もある」というのが率直な感想ですね。
ーー白石さんのもとに届く野球ファンのリアクションが少しずつ変化してきているのですね。その上で、チームは現在どのような課題に直面しているのでしょうか?
白石夏輝さん:現在の我々は、予算が限られている中で選手たちの育成環境をいかに整えていくか、そしていかにお客さんに球場へ足を運んでもらうかという課題に直面しています。
そもそも、僕らは独立リーグから参加してきた”1軍を持たない球団”です。
一般的に球団の運営は、1軍で収益を安定させつつ2軍は育成や調整の場として機能させていることがほとんど。つまり、1軍がないということは、球団を運営する上で収益の柱となる部分をもっていないに等しいんですね。
そんな中、2軍だけで健全な球団運営をどうやって実現するかが僕達には重要なポイントとなっています。
当然コストを抑える必要があるのですが、単に削減をしていくのでは選手たちの力を養える環境がなくなりチームは勝ちにくくなります。
負けてばかりのチームでは客足が減るどころか選手の獲得も難しくなり、負の連鎖となるだけですから、これをいかにアイディアと繋がりをもって正の循環にしていくかということに日々試行錯誤を重ねています。
ーーなるほど。「アイディアと繋がり」とは、具体的にどういった動きを指しているのでしょうか?
白石夏輝さん:まず、我々がアイディアをもって改良していきたいことの第一に「選手たちの食事」があります。
サッカーの年間試合数が40試合ほどであるのに対し、野球は140もの試合数があります。
それだけたくさんの試合をこなす選手たちにとって、食事は何よりも大切で、適切な食事を取らないことで夏場に体重がガクンと落ち、一気に成績の低下や怪我に繋がってしまいます。
それらを回避するためにも、十分な質と量の食事をとることが求められますが、1軍を持たない球団の我々には、予算面の課題が大きくのしかかります。
そんな状況下でも、何かしらの解決策を見出すべく最近では、オイシックスのグループ会社から協力を仰ぎ、アグリゲートからは運営する「旬八青果店」で人気のお弁当を選手に提供したり、シダックスからは、スポーツ栄養士の資格を持つ方々の知見を取り入れたキッチンカーでの食事の提供を開始しています。
また、チームを応援してくださっている地元企業さんからもフードロスになる前のお値打ち品をご提供いただくなど、沢山の方々に支えていただいています。
こういったご支援は本当にありがたくて、心身ともに選手たちや運営の励みになっています。
一つ一つの勝利の重み
ーー「限られた予算の中でいかに選手たちの育成環境を整えるか」の課題に対し、食事は大きなカギとなっているのですね。
白石夏輝さん:そうですね。僕自身これほどスポーツ選手と身近に接する機会は初めてですが、まず驚かされるのは他球団の選手と自チームの選手の体格差なんですよね。
背が高い・低いというよりも、他球団の選手は「分厚くて、デカい」という印象で、私たちの球団にいる元NPB出身の選手も「(前の)チームに入ってから10kg以上体重が増えた」というくらい入団後の食トレ・筋トレによる増量をしているんです。
「食べること」は、トレーニングや技術を磨くこと以前に、土台となる強い身体を作るために最も重要なことです。
だからこそ、身体作りのサポートが球団の役目なんだと実感しています。
ーーちなみに、1軍をもつ球団ではそういった育成環境はどれほど整っているものなのでしょう?
白石夏輝さん:例えばNPB12球団では、寮に室内練習場が併設されており、24時間いつでもトレーニングをすることができます。
ドラフトで獲得した選手たちのほとんどは入団後の数年間を寮で過ごし、徹底した食事管理のもとトレーニングを積んでいくそうです。
一方で、僕らには寮もなければ室内練習場もありませんから、そういった設備を整えていくことも課題です。
ーーそうなんですね…!それは確かに「オイシックスに負けたらやばい」という声があったのも理解できるような気がします…
白石夏輝さん:1軍を持たない僕らが、NPB12球団を相手にどう戦っていくのか。
施設などの設備面を整えることと共に、食事などのソフトの環境面をしっかり整えていく必要がありますよね。
また、現在オイシックス新潟アルビレックスBCにいる選手たちの多くは、そもそも「ドラフト」にかかったことがない選手なのです。
その選手たちが、このように環境も未発達な球団で他の球団と戦っている。
そう思うと、一つ一つの勝利が本当にすごいものだって実感しますよね。
先ほども少し触れた通り、イースタンリーグの4月成績ではオイシックス新潟アルビレックスBCの中山選手が打率で上位にランクインし、その後にも数名の選手が続いているような結果を残しています。
昨シーズンまでは独立リーグで戦っていたような選手達が、今こうして奮闘している。それってすごいことじゃないかと僕は思うんです。
非エリート選手たちが見せる姿
ーーそれを聞くと、一つ一つの勝利にどれほどの意味があるのか、まざまざと実感させられますね。ちなみに、独立リーグとファームリーグでは選手たちの契約も異なると伺ったのですが。
白石夏輝さん:そうですね。うちはまだまだNPBの契約水準には及ばないのですが、独立リーグ時代はそもそも契約の期間が現在の1年間とは違って10ヶ月間でした。
選手たちは契約が切れている2ヶ月間、自身でトレーニングを続けつつ、新潟市内のホームセンターやスーパーなどでアルバイトをして、生計を立てていかなければならなかったんです。
ーーそこまで過酷だとは…。
白石夏輝さん:それがファームリーグ参加によって年間契約になったので、オフシーズンもトレーニングをして力を蓄えてもらえるような環境をどう作るかが運営側の腕の見せ所ですよね。
しかし我々運営も今年が初年度のため、いつどんな費用がかかるのか手探りなのが実情です。
分かっているのは、この1年間で売上を昨年の3倍にしなければ赤字になるということ(笑)
ーー3倍ですか!?
白石夏輝さん:そうなんです、もうどうしたらいいんだろって感じです…(笑)
でも頑張るチームや応援してくださるサポーターの皆様のためにも、そんなこと言っていられないので、今は”コストを抑えつつ戦える環境を整えるには?”を、一つ一つどうしたらいいのか考えている日々ですね。
だからこそ、協力してくださる方々が少しずつ増えてきていて、各処と力を合わせて運営させていただいていることが本当にありがたいです。
どんなに些細なことでも、皆さんの応援や励ましが僕達にとっては何よりも大事なことです。いただいた支援に感謝し、結果で恩返ししていきたいですね。
新潟で見られる”野球”とは
ーーでは最後に、これから新潟の方に特に注目してほしい見どころは?
白石夏輝さん:今、僕らは「日本一おいしい球団」と「日本一選手が育つ球団」をテーマに掲げています。新潟の食の魅力を活かして、他のどの球場でも味わえないものを、皆さんに提供していけたらと思っています。
同時に、いまオイシックス新潟アルビレックスBCには泥臭く野球人としての夢を追っている選手、または、再起をかけてもう一度NPBを目指す選手たちが、野球エリートたちを相手に大健闘しています。
その姿はきっと、どんな人にとってもどこか重なる部分や力を与えられるものがあると思うんです。
だからそんな選手たちをみて、明日の活力を見出してもらえたり、前向きな気持ちになっていただけたら嬉しいです。
そして、その応援や支援をもって、チームとしてもより多くの勝利を新潟に届けていきたいと思います。
つまり、ありきたりですけど「そういう選手たち」の活躍を見てもらいたいです。ある意味、選ばれなかったモノたちの戦う姿。
いま新潟の球場で見られるのは、そんな下剋上にも近いストーリーなんだと思っています。
ーーありがとうございました!