「66年ぶりの新規参入」としてNPB2軍イースタン・リーグに挑むオイシックス新潟アルビレックスBC。
2006年の創設以来、地域に根付き、人々とのつながりを大切にしながら一歩ずつ歩みを進めてきました。
そんなチームは今シーズン、観客動員数は、前年比4倍となる約8万人となり、リーグでも3位という飛躍を遂げました。
今回は、舞台裏を支える総合企画部長・白石夏輝さんにインタビュー!
スポーツビジネスの面白さや、野球という事業を通じて見えた「新潟の魅力」、そして「応援が選手の力になる瞬間」をどのように作り上げてきたのか――。
新潟の地で得た学びと、次なる挑戦への思いをたっぷり語っていただきました。
このインタビューを読めば、きっとあなたも新潟の野球を応援したくなるはずです!
白石 夏輝さん Shiraishi Natsuki
1990年生まれ、立教大学卒業。インターン期間を経て、新卒でオイシックス株式会社(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に入社。食品宅配サービス「Oisix」を担当する部署にて、プロモーションや顧客体験の設計を主導し、副本部長ならびにCXO(Chief Experience Officer)を歴任。2020年からは、Oisixの海外事業に従事し、上海と香港の現地法人の代表を務めた。2024年からオイシックス新潟アルビレックスBCプロジェクト統括責任者として、「日本一おいしい球団、日本一選手が育つ球団」の実現を目指して邁進中。
1年間の球団運営を終えて感じたこと
―― 1年間、オイシックス新潟アルビレックスBCの運営を担当してみて、率直な感想はいかがですか?
白石夏輝さん:「これ以上に面白い仕事はないのでは?」というのが、まず感じたことです。
今までインターネットでの仕事がメインだった僕にとって、これだけ多くの人と直接関わる仕事は初めてでした。球場には一度に何千人もの人が集まり、試合展開に皆で一喜一憂するんです。その熱狂を間近で感じられるのが、本当に面白いですね。
―― スポーツビジネスならではの面白さを感じる瞬間もあったのでしょうか?
白石夏輝さん:そうですね。スポーツの現場には、普段の日常では味わえない「熱気」が渦巻いています。
試合に勝ったときの喜びや、敗れたときの悔しさ。こうした感情を観客の皆様と一緒に分かち合う体験が毎日のように訪れるんです。
印象的だったのは、今季一人で43試合(ホームゲーム64試合中)も来場してくださったサポーターがいたことです(オンラインチケット購入者データ調べ)。そうしたサポーターの方々の熱量を肌で感じるたびに、この仕事の魅力を感じます。
今年の球団の来場者は年間約8万人でしたが、プロ野球1軍の世界では年間300万人以上の観客が集まります。
そうした数字を見ると、野球の持つ可能性って本当にすごいと感じます。
それと比べると、僕らはまだまだ小さい規模ですが、「2軍の球団でも同じくらいの熱狂を作る」という目標を持って運営しています。
それくらい、野球というコンテンツの力は大きいと感じています。
企画や挑戦の振り返り”成功と課題”
―― 1年間の運営で白石さんにとって成果と言えるものは何でしょうか?
白石夏輝さん:8万人近い観客動員数を達成できたことや、球団として初めて自前のスタジアムグルメを販売できたことは、一定の成果と言えると思います。
しかし、最も手応えを感じているのは、応援してくださるサポーターの数が顕著に増えたことですね。
開幕当初も3000人近いお客様が球場に足を運んでくださったのですが、その多くがバックネット裏の席に集中していて、一塁側の応援団がいる周辺は空席も目立っていました。
つまり、チームを応援する、というよりも、野球の試合を観るという目的での来場が多かったということです。
しかし、目の前で選手たちのプレーや、チームの勝利を観ると、「自分も応援してみようかな」と思ってくださって、グッズ売り場に立ち寄ってメガホンや選手名鑑を購入し、そのまま応援団の近くで一緒になって声援を送ってくれるようになった、という光景を何度も目にしました。
シーズン終盤になると、同じ3000人来場でも、応援団の周りの席がぎっしり埋まるようになったんです。
スタンドの光景はもちろん、グラウンドから聞いていても、応援の声量や勢いが開幕時と比べて段違いでした。
今年は、ホームでの勝率も5割を超え、新潟のサポーターの皆様に勝ち試合を多くお届けできましたし、観客と選手が一体になって盛り上がるスタジアムの雰囲気を作れたことは、本当に大きな収穫でした。
―― 試合が進む中で、特に応援の力を実感した瞬間はありましたか?
白石夏輝さん:はい、先ほど申し上げた「5割を超えるホームでの勝率」は、確実に応援の力だと思います。ホームとは対照的に、今年ビジターの勝率は1割台と極端に低かったんです。
その数字はシーズン最後まであまり変わることがなく、その要因が何か気になって色んな選手たちに質問したんです。
「なんでホームとビジターの勝率がこんなに違うと思う?」と。すると、面白いように、全員から同じ回答が返ってきました。
「ホームは応援があるので、たとえ4点差をつけられていても、逆転できる気がするんです」。
質問を投げかけた全員が同じように回答をするくらい、「声援」というものはグラウンドでプレーする選手たちのパフォーマンスに大きな影響を与えてくれるんだな、と実感しました。
実際に、今季は終盤での逆転勝ちも多く、その度にスタジアムの盛り上がりは最高潮でした。サポーターの皆様の応援が試合の流れを左右する瞬間を、僕自身も運営を通じて何度も肌で感じました。
―― 苦労したことや課題も多かったのでは?
白石夏輝さん:そうですね、野球はもちろん、スポーツビジネス自体が初めてだったので、野球界特有慣習にも初めて触れて、学ぶことが多かったですね。
例えば、試合前の選手たちに話しかける必要がある時も、選手たちが試合に向けた準備を妨げないタイミングがあったり、ちょっとしたことのように見えてとても大切な気遣いなどもあって、これまで全く違う領域にいた僕にとっては新鮮でしたね。
また、グッズ制作も苦労しました。開幕前だけ担当をしていたのですが、僕自身、推し活やファン活動をして、コンサートなどでグッズを買うという経験をしたことがない人間だったので、「ファン心理」と呼ばれるものを理解するのも簡単ではありませんでした。
今振り返ると、「なんでこんなグッズを作ったんだろう?」と思うものも正直あります(笑)。
その後、僕より詳しい人に任せたり、外部のアドバイザーの方々にもたくさん助けていただき、たくさんのサポーターの方にご愛用いただくことができました。
新潟の地での球団運営
―― 新潟での球団運営を進める中で、地域との関わりから得たものは何ですか?
白石夏輝さん:野球の仕事を通じて、たくさんの新潟人の方々と関われたことが一番大きな収穫でした。
一般的な社内配属による地方赴任で、ここまで多くの地域の人たちと接点を持つ機会はなかなかないと思いますが、僕たちの目指す球団運営では地域との繋がりが欠かせないんです。
県庁や各市町村の行政の方々、地域の農協や観光協会の方々、県内各地の経営者の方々など、本当に多くの方々と話をする機会があり、そこで皆様の「新潟に対する愛」と「良いものがたくさんあるのに、それを活かしきれていないもどかしさ」をよく耳にしました。
しかし、それは同時に、新潟にはまだまだ大きな可能性が残されていることの証でもあります。
もっともっと成長していける土地だと思いますし、そうした「伸びしろのある地域」で球団運営に携わることは、僕自身にとっても非常に意義深いことだと感じています。
―― 新潟の地域性や県民性は「内向的」などと言われることが多いですが、実際にはどう感じましたか?
白石夏輝さん:僕は、それも「つながりの強さ」や「地域への愛着の深さ」の表れだと思います。
新潟の人たちは、とても親切で温かく迎えてくれました。僕自身、最初は新潟に馴染むのに少し時間がかかるだろうと思っていましたが、とてもよくしてくださる皆様のおかげで、思いのほか早く馴染むことができました。
それは「野球」という存在が、地域と僕自身を繋いでくれたのだと思います。
だからこそ、地域とのつながりを大切にする姿勢は、球団運営でも欠かせないものですし、球団のスタッフだけで作り上げる球団ではなく、新潟人の方々と一緒に作っていきたい。
そして、何かのきっかけで球場に足を運んでくださった方々に、少しでも「野球も面白いじゃないか」と感じてもらえる体験を提供することが、僕たちの役目だと思っています。
次のシーズンに向けた展望と挑戦
―― 次のシーズンでは、どのような取り組みを考えていますか?
白石夏輝さん:まず、「毎試合なにか面白いことがある」という状態を作りたいですね。
来場してくださった方が「次は何があるんだろう?」とワクワクするような仕掛けを増やして、2軍の中で「最多の来場者数」を実現したいです。今季の実績からみると、1.5倍の12万人が必要になってきます。
そして、スタジアムグルメも引き続き進化させていきたいです。今年もスタグル評論家の方から「日本で一番おいしい」といった講評も頂戴したりと、一定の評価はいただきましたが、まだまだ改善の余地があると思います。
また、勝率を上げるための取り組みも重要です。
今年はビジター戦での勝率が低かったので、選手の移動によるプレーへの支障を減らすために、試合前泊を増やすなどの対策を考えています。ただ、予算の問題もあるので、工夫が必要ですね。
さらに、選手たちの身体づくりも課題です。他の球団に比べて平均体重が約5キロも軽いので、食事やトレーニングを強化していきます。
―― 選手と地域との関わりについてはどう考えていますか?
白石夏輝さん:選手たちには、より多く県内のイベントなどに積極的に参加してもらい、地域の方々とのつながりを深めていきたいと思っています。
選手たちは、ただ試合で結果を出すだけではなく、地域の方々との交流を通じて「この選手を応援したい」と思ってもらえる存在になってほしいですね。
そうした関係を築くことが、チームと地域の両方にとって大きな意味があると思っています。
―― 白石さんご自身は、選手たちにどのような思いを持っていますか?
白石夏輝さん:僕もそうでしたが、幼少期に多くの人が夢見る「プロ野球選手になりたい!」という思いを、選手たちは大人になった今でも変わらず心に抱きながら、日々の努力を重ねています。途中で諦めていく人も多い中で、今でも夢を追い続ける姿勢というのは、近くで見ている僕自身にとってもとても眩しく映ります。
そんな、大人になっても夢を追いかけて必死に頑張る選手たちの姿を、もっと地域の方々に知ってもらいたいですね。
彼らがどれだけ真剣に夢を追いかけているかを知っていただくことで、「自分も頑張ろう」「頑張ってるこの選手を一緒に応援しよう!」と感じてもらえたら嬉しいです。
選手や球団の存在が誰かの日常を頑張るための、前向きに挑戦するための糧となることができたら、これほど嬉しいことはありません。
選手と地域の方々が、互いに良い影響を与え合える関係を築けることが、僕たちの目指す姿です。
1年間の学びと地域への感謝のメッセージ
―― 最後に、この1年を振り返って得た学びと、来シーズンへの意気込みをお願いします。
白石夏輝さん:この1年間で、スポーツビジネスの面白さを存分に味わいました。
地域の皆様と一緒に何かを企画したり、サポーターの方々と一緒に勝利の熱狂を味わったりと、本当にたくさんの素敵な繋がりや出来事が生まれました。
しかし、まだまだ目指しているところからは、大きくかけ離れている現状もあります。
「現状維持は衰退」の覚悟を持って、今年よりも全ての面で良くなれるよう、よりたくさんの地域の方々のお力も借りながら、新潟県と野球界の発展に貢献できるよう改革を続けていきたいと思います。
来シーズンは、もっと多くの人に球場に足を運んでいただき、新潟の皆様と一緒にたくさんの熱量を作っていきたいと思いますので、来シーズンもぜひ応援をよろしくお願いします!
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