独立就農を全面支援!牛田光則さんの「農業研修体験談」

以前、当メディアで紹介した上越市で「うしだ屋」を営む牛田光則さん。

牛田さんはたまたま縁があって、妙高市のホテル支配人から上越市の農業研修を経験することになりました。そこで、師匠である天明(てんみょう)さんと出会い、一気に農家への道を進むことになります。

牛田さんの農家としての原点である「農業研修
今回は、その内容や費用について、赤裸々に語ってくだった内容をまとめてみました。

新規就農に興味がある方は必見です!

 

注:牛田さんが実際に活用された具体的な制度などは、2015-2016年当時のものです。現在ある制度とは、多少内容が異なる可能性がございます。

住み込み農業研修にて経営のイロハを学ぶ

ー農村研修とは具体的にどんなものなんですか?

牛田光則さん:私は、約25年前に東京から新潟へIターンされた天明(てんみょう)さんが営む星の谷ファームで、住み込み農業研修をしました。

農業とひとくちに言っても、稲作、園芸、畜産などの種類や、また経営規模も従業員を何人も使う大規模法人から家族経営、あるいは独り兼業でやるようなスタイルまで様々です。私たち夫婦を受け入れてくれた天明さんは、山のなかとしては中規模以上の面積ですが、家族との時間も大切にしながら自然とよく遊び、自然に寄り添った農業をされており、私たちはすぐにその暮らしに惹きつけられました。

農業研修って、農作業の仕方だけを教わるように思われるかもしれませんが、私たちが幸運だったのは、天明さんが営業や経理、さらには地域への馴染み方や集落での暮らしまで含めた指導をしてくださったこと。商品PRや価格設定、発送方法など、農家が経営者となって仕事や生活を成り立たせるためのノウハウを手取り足取り教えてくださいました。

正確にいうと、僕は当初農業アルバイトとして軽い気持ちで天明さんの元へ来たんです。しかし、その研修内容や人柄に魅了されて途中から本気で就農を考えるようになり、申請書を提出してアルバイトから研修生への格上げをしてもらいました。

 

ーどんな申請を出したら農業研修生になれるんですか?

牛田光則さん:国や県に研修カリキュラムと就農計画書を提出するんです。その内容が認められたら、研修生に年間最大150万円が支給されます。(注:当時は「青年就農給付金」という名称でしたが、現在は「就農準備資金・経営開始資金」という名称に変わり、制度内容も一部変更されています)

研修カリキュラムは、受け入れ農家と研修希望者が相談の上作成し、審査では独立後の経営計画と、独立のために必要な技術が研修で得られるかどうかが厳しくチェックされます。実際、一時期は新潟県でも農業大学校以外は研修先機関として認められない時期もあったそうです。

農業は作物を育てるだけでなく、経営という観点がないと長続きしないです。就農時の施設や機械購入などで初期投資が大きい場合も多く、給付金が終わったあとは経営がうまくいかず、離農してしまうケースも結構あると聞きます。そうならないように、給付金審査は年々厳しくなっている傾向があるそうです。

 

写真はうしだ屋インスタグラムから〈リンクはプロフィールにて〉

ー農家としての経営を成り立たせることって、どれくらい難しいことなのでしょうか。

牛田光則さん:例えばコメ農家に関しての話ですが、昔は国民一人当たりのコメ消費量も多く相場も今より高かったんです。だから、今ほどシビアに考えなくても経営が成り立っていました。しかし、最近はそうもいきません。農協さんが必ず買い取ってくれる制度はメリットでもありますが、現在の価格では十分な所得を得られないのもまた事実。だからどの農家も、少しでも高く買い取ってくれる業者を探したり、あるいは卸業者は通さず直接消費者に販売するためECサイトを整備したりと努力するわけです。

私たちは大規模化・効率化が難しい山のなかの農家ですが、小さな農家には小さな農家なりのメリットや工夫の仕方があります。天明さんが指導してくださったやり方は、小さな面積でも柔軟に経営することで生き残ることができる方法です。効率を極限まで極めながら経費を減らす方法ではなく、古いものを使い繋ぐことで大きな投資をせず、こだわりの作物を丁寧につくり、直接お客さんの手元に届ける手法。

でも、全く農協にお世話にならないわけではなくて。肥料や機械でもお世話になるし、自分達で捌ききれないものは引き取ってもらったりするんですけどね。

農協も農産物の高付加価値化を目指していて、農協に出さない農家をイジメるようなことは一切なく、地域で頑張ってる農家さんを後押ししてくれます。

 

牛田さんが実践した等身大の農業経営

写真はうしだ屋インスタグラムから〈リンクはプロフィールにて〉

ーちなみに、研修中や独立の時、それぞれどのくらいの費用がかかるものなのでしょうか。

牛田光則さん:私たちの場合、研修生になるための費用はほとんどありませんでした。農業研修中は、先ほど説明した国や県からの支給で年間150万程度の収入があります。研修に支障がなければ、他のアルバイトをすることも可能でした。天明さんの研修受け入れスタイルは、住居や米味噌は支給。車も買い出しの際など必要なときは貸してもらえたので、生活に困ることはなかったです。

じつは私たち夫婦は独立するとき、あまり貯金がなくて。いま自宅兼民宿にしている古民家を約200万で購入すると、本当に貯金がほとんどなくなってしまいました(笑)

それでも、販売研修のひとつに「天明さんからお米を仕入れて試しに売ってみる」というものがあり、直販を経験しつつ、自分達のお客さんを研修中から確保しておくことができたため、
独立直後でも販売先がゼロからのスタートではありませんでした。そのため、通常であれば独立後すぐは農作物の栽培と販路開拓の両方に苦労するところが、いくらかの安心感をもって就農できたと思います。

 

ーそんなことまで研修でやらせてもらえるんですね!

牛田光則さん:天明さんご自身が、Iターン移住をして就農された経験をお持ちだからだと思います。また、小規模な個人農家だからこそ、直接消費者の皆さんとつながって私たちがどういう想いや夢をもって農業に挑戦しているのかを理解してもらえるのだと思います。これが大規模な農業法人であれば、まずは米の単価よりも量をさばくことを考えなければならないですからね。

天明さんの研修は雪国ならではのところもあって、田んぼのできない冬のあいだは座学を集中的にやったりしました。帳簿の付け方を学んだり、いろいろな農法の本や農業経営者の著作を借りて読んだり。除雪のアルバイトもしつつ、妻と経営計画の細部を詰めるなど、独立前の貴重な準備期間でしたね。

 

農家の暮らしは、誰のために生き、働いているのかが明確

写真はうしだ屋インスタグラムから〈リンクはプロフィールにて〉

ー牛田さんも将来の農家候補としての従業員を募集されているそうですが、どんな方に来ていただきたいと考えていますか。

牛田光則さん:同世代の30代夫婦や家族とかで、片方はリモートワークでも働けるという形で来てくれるのが1番理想だと思いますね。やはり山のなかの農業なので、農家一本槍ではなく、複業を前提にした就農計画が良いと思います。あとは自然が好き、都市(まち)より山のほうが落ち着くなどの人でしょうか。

でも、こればかりは人とのご縁なので、理想を主張したり、焦ったりしても仕方ないです。今は、地道に知り合いを辿ったりして、興味がある人がいれば声をかけてという形でゆったりと募集しています。

 

ー最後に、農業研修を経て就農した牛田さんから農家の魅力を教えていただけますか。

牛田光則さん:山のなかの農家の良いところは、なんといっても自給自足の安心感だと私は思います。米、味噌、野菜は自らの手でつくり、肉は猟師さんからいただき、天明さんは鶏を飼って卵も採り、山にはきれいな水が湧き、里山で伐った木を薪にする。災害や戦争など予想のつかない世の中でこれに勝る安心感はありません。且つ、つくった農産物で友人やお客様に喜んでいただき、暮らしを支えていただく。自分が誰のために生き、働いているのかが明確で、しかも一年一年失敗や経験を積み重ねて上達していく面白さは農業ならではのものだと思います。

写真はうしだ屋インスタグラムから〈リンクはプロフィールにて〉

 

***

新潟は全国屈指の農業大国。県イチの都市である新潟市は、日本有数の水田地帯を誇る「田園型政令市」です。自然が豊かで、新潟だけで生活が完結できる。そんな新潟には、自由で格好良く農業をされている方がまだまだたくさんいます。

今後もさまざまな農家のワークライフスタイルを追っていきたい、なんて考えていたり。。。

 

注:牛田さんが実際に活用された具体的な制度などは、2015-2016年当時のものです。現在ある制度とは、多少内容が異なる可能性がございます。

新潟県の農業に関する各種情報窓口はこちら『にいがた農業ナビ』

牛田光則さん
うしだ みつのり|経営者


1983年、福岡県生まれ。長野県八ヶ岳での山小屋勤務、ニュージーランドでのワーキングホリデー生活ののち、新潟県の妙高高原で小さなホテルの支配人などを経験。2015年から上越市に農業研修生として移り住み、2017年「うしだ屋」として独立。
現在は、里山イノベーション研究会の会長を務めるほか、近隣の若手農家2人と共同で合同会社「旭商店」を設立。地域資源の価値を確立し、活性化につなげている。

うしだ公式HP:https://ushidaya.com/

 

関連記事

上越市大島区の山間に、米農家と民宿を両軸で展開する「うしだ屋」。 今回は、オーナーの牛田光則(うしだみつのり)さんに取材をしてきました。 農薬を使わないアイガモ農法や低農薬栽培で生産されたうしだ屋コシヒカリを、全国のお客様へ直販。 […]

関連記事

「出会いって希望。出会いがあれば、そこから何かが生まれる」 そう話してくれたのは、東京で生まれ育ち柏崎市小清水(こしみず)集落にIターンした、矢島衛さん(写真左)。 矢島さんが移住したのは、2007年。大学で専攻していた民俗学の卒論[…]

SPIN A TALE