あなたは着物の町と聞いてどこの地域を思い浮かべますか?
日本の伝統的衣服として古くから愛されている着物は、現在も全国各地で生産されています。その中でも特に有名な産地と言えば、西陣織の京都や、加賀友禅の石川県金沢市、江戸小紋の東京など。
日本各地に存在する着物の町ですが、新潟県にも日本有数の「着物の町」が存在します。新潟県の南部、魚沼地方の中心に位置する人口4万3千人の町である十日町市です。日本一おいしいブランド米として有名な”魚沼産コシヒカリ”の産地として知られる十日町市では、綺麗な水と気候を利用して古くから絹織物の生産が盛んです。
十日町市は豪雪地帯のため、冬は雪が積もって田畑が使えなくなる間に、農家の女性たちは織物などの副業をしていました。そのため、十日町市の着物の生産は、冬場の農家の人たちのもとで発展を遂げてきました。
まずは、そんな十日町市の着物がどのように発展していったのかを見てみましょう。
十日町市、着物の歴史と変遷
着物の生産地として栄えてきた十日町市は、今や日本有数の高級絹織物の産地としてその名を馳せています。
十日町の着物生産の歴史は古く、弥生時代の遺跡の中から糸を作り出す機械などが発掘されています。
越後縮は従来の着物と比べて、シャリッとした肌触りのベタつかない着物として、夏にかけて大変重宝されます。さらに、越後の高級特産品として知られ、江戸時代後期には最大で年間20万反ほど生産されるまでに。また、位が高い人が着用したり、江戸城に出向く際の正装とする規則が制定されたり、徳川将軍家からも一目置かれる存在となりました。着物の名産地として知られてきた十日町ですが、幕末以降は着物に使う素材を麻から絹に変えて生産を始めます。その結果、絹織物独特の光沢と風合いのある「十日町がすり」と「明石ちぢみ」が誕生しました。
越後縮の織り方を受け継いだ、絹糸で紡がれた絹独特の艶と繊細な絣模様の「十日町がすり」と、清涼感あふれる着心地が特徴の「明石ちぢみ」は国の伝統工芸品として指定されるなど高い評価を受けています。このように質の高い絹織物を作り続けた結果、十日町は絹織物の一大産地としての地位を確立しました。そして近年の十日町市では、伝統の織物技術を生かして「十日町友禅」がつくられています。
この友禅は京都府や滋賀県から白い生地を仕入れ、その上に柄を描いて、色を染めて仕上げていく技法で作られており、歴史ある十日町の着物職人が生み出す、絵画のように色鮮やかで美しい模様は多くの人を魅了させています。今も昔も着物の町として様々な着物を生産しており、十日町市民だけでなく多くのファンから親しまれています。
十日町の着物づくり、独自の生産方法
十日町市の着物づくりの中で、他の地域と違う大きな特徴の一つは独自の商品改良や生産体制です。
一般的に着物を作る際はその工程に応じて、分業しながら生産をするのに対して、十日町の着物製造メーカーでは「織り」「染め」「絞り」「友禅」「刺繍・箔」といった生産の工程を一つのメーカーで完結させる生産体制をとっています。
この生産体制のメリットとしては、以下の3つのことが考えられます。
●各メーカーで独自の技法を開発できる
●品質を守りながら効率的に生産できる
●技術の流出の心配がない
このような点から、後継者不足で悩む着物業界の中でも、優秀な人材を育てつつ、伝統的な技術を守り続けることができたのでしょう。
他にも特徴があり、一般的に着物を作る際は「染め」か「織り」のどちらか一方の技法を用いて作ります。
染めとは、「先染め」とも呼ばれ、友禅に代表されるような染色した白い糸を織って着物に色をつけていく技法。
織りは「後染め」と呼ばれ、予め白い糸で生地に模様を織ってから、染料を用いて色をつけていく技法。
十日町では2つの技法を1つの産地で生産しています。
このような独自の特徴がある十日町には、伝統的なデザインからトレンドを取り入れた現代的なデザインまで様々。バラエティー豊かな着物の中から、きっと自分にとっての運命の1着に出会えることができるはず。
十日町きものまつりについて
そんな日本有数の着物のまちである十日町市では、毎年5月3日に「十日町きものまつり」が行われます。
2019年以降、「十日町きものまつり」は新型コロナウイルスの影響により中止となっていましたが、一部のプログラムを変更し、2022年に3年ぶりの復活を遂げました。
また、この日は十日町市の成人式も同時に開催されるので、まちには色とりどりの着物をまとった老若男女が集まります。
春の一大イベントとして開かれる「十日町きものまつり」では市街地中心部の本町1〜6丁目通り・駅通り・高田町一丁目が歩行者天国となり、着物の貸出しや着付けを行う「きものの里をきもので歩こう」や、きもの掘り出し市、毎年2月に開催される十日町雪まつりで選ばれた“十日町きもの女王”の撮影会イベントのほかに、十三詣り、稚児行列などの伝統行事も開催されます。
例年2メートルほどの積雪量を誇る十日町市にとって、春の訪れはとても喜ばしいものです。暖かい春の陽射しの中で、お気に入りの着物を着て十日町を歩いてみてはいかがでしょうか。
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古くから着物の街として栄えてきた十日町市では、着物の生産に適した環境や風土、そして長年大切に継承されてきた技術によって今もなお、素朴な風合いの先染織物と、振袖や訪問着など華やかな後染織物の技術の両輪を併せ持つ全国屈指の着物の総合産地として知られています。
大量生産・大量消費の時代になってからは、洋服を着ることが当たり前となり、着物を日常で着る機会は圧倒的に減りました。しかし、結婚式や、成人式など人生の門出である大切な日には、今も着物や振り袖が着用されています。
そんな大切な日を彩る“着物”の一大産地として、新潟のまちがこうして活躍しているのはとても誇らしいことですね。
同じ新潟県内でも、住んでいる地域が違えば他の地域のことを学ぶ機会などは滅多にありません。
広くて長い新潟県だからこそ、まだまだ県民の知らない新潟の魅力がたくさんあります。
今後niigatabaseでは、こういった伝統文化の魅力も発信していきます。ぜひ楽しみにしていてください!
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