新潟には日本酒と丁寧に向き合い、豊かな人生を送っている方が多いと思うんです。大して世間を知らない私がいうのもなんですが。
酒蔵で働く方々にしろ、酒屋さんにしろ、日本酒を提供する飲食店さんにしろ、私がUターンしてからの1年半の間だけでも、日本酒と丁寧に向き合っておられるたくさんの方と出会うことができています。
今回取材させていただいた、西澤眞咲さんもまたその1人。お酒と共に、自分や周囲の人の心に寄り添う素敵な居酒屋店主さんです。
実はこの方、私の友人を通じて知り合った同世代女性。若者の日本酒離れと言われていますが、西澤眞咲さんは20代にして1人で日本酒のお店を営んでいます。どうしてそこに至ったのか、大変ではないのか、というお話から、西澤眞咲さんの飾らない等身大の生き方が見えてきました。
近年はSNSに左右されて他人と比較してしまったりする人や場面が多いと思うんです。もし、「自分って流されてるな〜」と感じている人がいたら、ぜひ読んでみてください。比べなくていい、それでいいんだ、と思える内容から、きっと勇気をもらえることと思います。
ぶつかって、修正して今がある
ー唐突ですが、まずはお一人で日本酒のお店を経営することになった経緯を教えてください。
西澤眞咲さん:そうですね。今につながる私の原点のお話をさせて頂きますね。
私は高校時代に通っていた高田の街が好きで、そこから「地域」に興味を持ち始めたんです。大学は、地域経済学部といって地域の活性化について学べるところに進学しました。そして、大学時代はいろんな経験を積みたくて、多様な活動に首を突っ込んでいたんです(笑)また、大学3年になると、よく1人旅もするようになり、旅先で出会った人とお酒を通じて心を開いたりもしていました。この時期に、お酒を飲み交わすことで生まれるものがあると実感するようなことをいくつも経験したんです。
日本酒やおいしいお料理が並ぶ場では、ついさっき「はじめまして」をした人々だって緊張がほぐれて、シンプルに楽しい交流が生まれます。そんなことが嬉しくて、自らその場所を作るべく、自宅に友人たちを招いて手料理を振る舞う「にしざわ食堂」を開くようになりました。
心の距離を縮めるのに、お酒の力は絶大です。地域経済を学んでいた私は、NPOに入ったり公務員になるのではなく、お酒を用いたアプローチから結果として地域活性化に繋げていきたいと考えました。
そして、在学中に利酒師の資格をとり、卒業後はお酒の卸売会社や旅館のリゾートバイト、日本酒バーの雇われ店長などを経験して今に至ります。
ーお酒から地域活性化にアプローチしようと思ったのですね。
西澤眞咲さん:そんなに大それたことは考えてなかったのですが、地域活性化って1人1人がやりたいことをして単純に人生を楽しんでいることの結果として、後ろからついてくるものだと思うんです。だから、私は大学で地域経済について学んだけど、それだけで「私は地域活性化のプロです」だなんて言えるものではありません。じゃあ、私にできることってなんだろう、大学を卒業して私はなんの力を得たのだろうと考えた時、「地域活性化」につながる別の軸を見つけようと考えたんです。それが、私には「お酒・日本酒」でした。
素でいられる場所を、みんなにも
ー今の西澤さんにとって、テーマのようなものってありますか。
西澤眞咲さん:「飾らない/素のままに/自然体」とかが、自分のお店を開く直前あたりからのテーマみたいになってます。自分自身も素のままでいたいですし、お店に訪れるお客さんにもリラックスして過ごして頂きたいんです。だから、お店ではお客さんに「いらっしゃいませ」ではなく「こんばんは」とか「おやすみなさい」と声をかけたり、そんなことでも自然体を意識していたりします。
ーそのテーマを掲げるには何かきっかけがあったのですか?
西澤眞咲さん:これと言ったきっかけはないのですが、お手本にさせてもらっているお店はあります。群馬県高崎市にある「灯り屋」というお店で、学生時代に足繁く通った大好きなお店です。
群馬を離れて何年も経つ私ですが、未だにお店に行くと「おかえり」って迎えてくれ、力が抜けるようにリラックスできるお店なんです。自分のお店も、そんな空間にしたくてDIYするときにデザインから参考にさせてもらいました(笑)
ー確かに西澤さんのお店「スイミー」には、そういった世界観を作り出す仕掛けが施されていますよね。SNS含め、お店の見せ方などどこかで学んでこられたのですか。
西澤眞咲さん:特にないですね。でも、なんか良いなって思うお店の空間づくりや宣伝文句にはつい注目しちゃってますね。
学生時代に出会ったデザイナーさんに「まずは目を養うことが大事」と教わったことがあるんです。その一言が頭に残っていて、お酒という軸を見つけてからは、お店の空間づくりなどをよく見て覚えておくように意識していました。
これいいな、これは違うな、自分の店を出すならこんな感じにしたいなって。
難しい勉強をして資格を取ったわけでもなく、自分がいいなと思ったものをひたすら真似して自分の空間を作っただけなんです。
ーお店で提供するお料理などは、どうやって考えたりしているのですか。
西澤眞咲さん:料理に関しても、最初は調理師免許取らないといけないのかとか、どこかで修行する必要があるのか、などいろいろ考えたんです。学ぶためには資金が必要だから、業界問わず一度どこかに就職した方がいいのか、など。そしたらあるとき、「今度新しくできるカフェ、飲食経験0の女の子が始めるんだって」なんて情報が耳に入ってきて。「いいのか!ならやろう!」って思たんです(笑)
ー不安などはなかったですか。
西澤眞咲さん:ちょうどその頃、『しょぼい起業で生きていく*1』っていう本を読んでいたんです。そこには、上場やイノベーションを目指すのではなく、生活の中で自分がやっていること、やれることを事業化すればいいという内容が書いてありました。これが私にはものすごく刺さったんですよね。
資格をとり、準備をしてから起業するのではなく、小さなところから始める。出さなきゃいけなくなったときに申請を出して事業化すればいい。申請だの準備だの言っている間は成長しないのだから、まずやりたいことを始めてみるのが大事だと学びました。お金を取るのがNGならば、最初はタダでもいいか、くらいの思考に転換したんです。
実際に、居酒屋メニューってお客さんに食べてもらいながら出来上がっていくものも多いんですよね。今なんて特に、お客さんとの関係が築けてきているからこそ、色々試作をしてみて感想をもらったりして、挑戦し続けられている気がします。
*1 『しょぼい起業で生きていく』えらいてんちょう著 イースト・プレス社 (2018/12/16)
お客さんと作る大切な空間
ーお料理やドリンクの提供を1人で回すことって、相当大変じゃないですか。
西澤眞咲さん:パンクしてしまう時はありますね(笑)サービスを行き届けられずにお客さんを待たせてしまうこともあります。でも、うちは幸いオープンキッチンなこともあってか、提供が遅くてもサボっているわけではないと分かっていただけたりします。だから、たとえパンク状態の時でも、“焦って美味しくないものを出すよりも、ちゃんと落ち着いて美味しいものを作ろう”と冷静でいられるんです。
あと、飲食の忙しさにはだいぶ慣れたので、苦ではないです。むしろ、忙しい時ほど「生きてる〜」って感じがしたり(笑)
ーメンタルが鍛えられそうですね(笑)
西澤眞咲さん:うちは1人運営サイズのお店だからこそ、私が必死な顔をしていたりするとお客さんに伝わってしまうんです。ドリンクのおかわりを我慢させてしまったり、声かけるタイミングを気遣わせてしまったり。だから、自分の苦しさを見せないようにする、なんなら無になって苦しさを自覚しないようにするとかは自分自身に課しているミッションですね。
ーお店を営む中でのやりがいってなんですか。
西澤眞咲さん:おいしかったって言っていただけた時は、やっぱり嬉しいです。あと、お客さん同士がつながってくれて「またスイミーで会おうね」ってなってくれる時も。お客さん同士が盛り上がりすぎて私いなくても良くない?ってなったりする時も(笑)色々言い出すとキリがないくらいやりがいだらけ(笑)
要するに、自分が作ったこの空間で新しいものが生まれる時ですね。
ー西澤さんのワークスタイルってとても素敵ですね。ちなみに、今後のワークライフスタイルについては、どう考えているのですか。
西澤眞咲さん:具体的な何かが決まっているわけじゃないのですが、そのうち結婚はしたいですし、子供も欲しいと思っています。
お店はどうにでもなるので、やりたいことを軸にしながら考えていけばいいなと思っています。
最近はイベント出展させてもらえたりすることがとっても楽しいですし、将来子供が産まれた時はベビーベッドを置いてランチ営業だけにしてもいいですよね。今のこのスタイルを一生貫こうとは思っていないですし、2号店を出して広げていくつもりも特にありません。
その時々のやりたいことや状況に順応して歩んでいけばいいと思っています。
過去の自分に、今伝えたいこと
ー少し変わった質問をしますが、もし高校・大学生の頃の自分に何かアドバイスできるとしたら、何を伝えますか。
西澤眞咲さん:自分へも他人へも、心の動きにアンテナを向けてあげるといいよ、と伝えたいですね。
私は未だに、不用意な発言で「あれ、失敗しちゃったかな」って思うことがあるんです。だから、相手の心にアンテナを向ける練習って日頃から大切だと思うんです。
それから、自分の心にアンテナを向けることも大事だなと感じます。
本当はどんなことが好きなのか、どんな時にモヤモヤしているのか、高校や大学生くらいって心を理性や思考で殺せちゃうからこそ、心とは別の方向に進んでしまう時もあったと思うんです。そういうことを繰り返して、失敗や後悔をしながら大人になっていく場合もあるのでしょうけど。でもやっぱり私は、自分の心に耳を傾けたり自分の感情を客観的に把握する癖をつけることをおすすめしたいですね
あ、それから私はちょっと頑固なところがあって、人からのアドバイスってなかなか素直に聞き入れられないんです。でも、アドバイスしてくれる人に対して感謝を伝えることは大事。だから、そこは謙虚になりなさいって言いたい(笑)
一方、実際に人からのアドバイスに従うかどうかは別。人から「これはやめた方がいいよ」と言われることも、自分の本心で「やめよう」と思うことで初めて本当にやめるものだと思うんです。
逆にいうと、人から言われたってだけでは自分がやろうとしていることをやめられない。私は昔からそういう性格でした。
で、いま過去の自分に言えることは「そこはそのままでいい」です(笑)
その性格だから、自分の気が済むように行動してこれました。失敗とか後悔する結果に終わる時って、決まって他人軸で考えていたり頭だけで考えて、心に素直じゃない時なんですよね。だから、これも結局「自分の心に素直でいる」に共通していますが、自分がワクワクすることをどんどんやっていきなよ!と伝えたいですね。
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西澤眞咲さんの生き方って、本当に等身大なんです。失敗したら、修正する。お酒と作るこの空間を大事にしたいから、今の生活をしている。とっても心に素直なんですよね。
だから西澤さんと話していると不思議と、未来に対する不安なんてなくなる感覚になります。未来ってわからないものだから必死に先読みしようとするし、危険を回避しようとすると思うんです。でも、西澤さんって、わからない未来に対する不安がないんです。正確にいうと、その不安を重要視していないんです。「未来?そんなものは知らないけど、なんだっていいよ。どうにかなるから。」的な感じ(笑)
こういう方が迎えてくれるお店って本当に素敵。ふら〜っと立ち寄って、なんとな〜くお喋りしたり、考え事をしてみたり、そして「おやすみ〜」って帰る、そんな空間、いいですよね。
- 西澤眞咲さん
にしざわ まさき|経営者
1994年生まれ。上越市高田町の高校卒業後、群馬県の大学に進学。大学時代に日本酒の魅力に気付き、3年次に唎酒師認定を取得。卒業後は、酒類卸売店に就職。その後、リゾート派遣の仕事を経て、上越市にUターン。日本酒バーの店長を経験し2020年4月に独立。現在は「古本と日本酒の店 スイミー」を経営している。
note:https://note.com/swimmy______
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