今回は、LAGOON BREWERYの田中洋介さんから聞いた、「クラフトサケ」造りの面白さについてご紹介します。
前半の記事では、田中さんが酒蔵をオープンさせてからの約1年半の挑戦について取材しています。
記事を読む場合はこちらをチェックしてみてください。
そもそも「クラフトサケ」とは?
2022年に立ち上がったクラフトサケブリュワリー協会が定義する「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースとして、お米を原料としながら従来の「日本酒」では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒のことを指します。
クラフトビールがビールの伝統的な製法をベースに、地元の特産品や風土を活かした個性豊かなビールを生産するのと同様に、クラフトサケは伝統的な日本酒の製法をベースとしながら、酒蔵独自のアイデンティティやこだわりが反映されたものです。
クラフトサケの特徴としては、以下のような要素が挙げられます。
〈小規模な酒蔵〉
クラフトサケを生産する酒蔵は、一般的な酒蔵よりも規模が小さく、醸造家や杜氏だけでなくオーナー自身も一貫して製造に携わることが多いです。
〈手作業による製法〉
クラフトサケは、伝統的な製法や手作業を重視しています。米の選別や磨き、発酵・仕込みの管理など、醸造の各段階で手作業や伝統的な技術を駆使しています。
〈地元の素材や風土の活用〉
クラフトサケでは、地元で採れる米や副原料などの素材を使用し、その土地固有の特徴を生かした味わいを追求します。地域の風土や気候条件が酒の個性に反映されることが多いです。
〈多様な味わいの提供〉
クラフトサケは、伝統的なスタイルにとらわれず、多様なスタイルやフレーバーを追求します。果実、スパイス、野菜、ハーブなどを米とともに醸し様々な種類のクラフトサケが生み出されます。
クラフトサケは、その多様性や独自性、醸造家や杜氏の情熱が詰まった日本酒として、近年注目を集めています。
さまざまな素材を掛け合わせて作る、新しい「クラフトサケ」
ーLAGOON BREWERYでは、トマトやイチゴなど、地元の素材と掛け合わせる商品も展開していますよね。開発はどのようにされているのでしょうか。
田中洋介さん:クラフトサケは、リキュールなどとは違って他の素材も一緒に発酵させて作ります。果物はそれ自体が糖を持ってるので、発酵とは相性がいいんです。
でも造り始める時はいつも、どうなるんだろうって先が見えない感じですね。
特にトマトは果実ではないので難しく、不安なまま暗闇の中を進んで、やっとできたような商品でした。
〈トマトとバジルの翔空(しょうくう)SAKEマルゲリータを酒好き編集部メンバーが飲んだ感想〉
初めて見た時は、「日本酒にトマトとバジル!?!?」と驚きました!
口にすると、ほんとにトマトとバジルの味が口いっぱいに広がり、さらに驚き!
チーズとの相性は抜群!今までたくさんの日本酒を飲んできましたが、
「旨み・新しさ・面白さ」がここまで揃ったお酒は初めてでした!
パーティとかに持っていったら盛り上がること間違いなし!私はすっかり虜です!
ー掛け合わせなどのアイデアはどのように生まれるのですか?
田中洋介さん:豊栄はトマトがよく採れるので、トマトを使った酒造りは最初からやってみたいと思っていました。トマトの持つ酸味と甘みのバランスと、日本酒の酸味と甘みのバランスが合っていて、日本酒とトマトの相性はいいと思っていましたので。
酒自体は仕込んでから約1ヶ月半でできます。とはいえ、もちろん正解は分からないので、その後も何回も試作を繰り返します。
野菜や果物、ハーブに挑戦してゆく中で、日本酒造りの基本に手を抜かなければ、骨格は崩れないことが分かってきました。なので、そんなに下手なものにならない自信を持ってます。
ー新商品を作る時に大切にしていることはありますか?
田中洋介さん:手の届く範囲の素材から造ることです。
遠くから原料を運んできたりはせずに、近所の農家さんや知り合いが育てているものなどの距離感でいたいと思っています。
そのほうが環境に優しいですし、責任感や少しの緊張感が生まれて品質の向上につながると思うんです。お互い、実際に育てていたり作っている現場をすぐに見に行くことだってできますし。
さまざまな原料を使えるクラフトサケ造りだからこそ、無制限状態では答えや軸を見失いがちですから、制限を設ける意味でも、自然に巡り合ったものだけを使おうと決めています。
クラフトサケに学ぶ、日本酒造りの自由さと不変さ
ークラフトサケを造り始めたからこそ、自由でいい部分と守るべき基本を実感できたのですね。
田中洋介さん:日本酒だけを造っていたら味わえない感覚だったかもしれませんから、これを発見できて良かったです。米や酵母の選択肢だけでもたくさんありますが、クラフトサケの場合もっとたくさんの選択肢に溢れています。だから逆に、自分で制限を設けて、その中でやっているわけですが、それでも引き出しがどんどん広がっていくことに面白さを感じてます。
ークラフトサケの世界、面白いですね!
田中洋介さん:実はクラフトサケ造りは、アメリカだったら10年以上前から行われていることなんです。僕自身も初めて目にした時は、「なんだこれ!」と思いました。アメリカには日本のような制約がないので、自由にサケを作れたんです。
今はその自由さが逆輸入されて、クラフトサケが国内で認知され始めている状況です。
実はビールも、本場であるドイツを凌ぐ勢いで、アメリカのクラフトビールがブームを起こしています。
伝統的なものと新しくオリジナルなものが行き交う時代だからこそ、クラフトサケは日本における日本酒という資産をさらに飛躍させる重要な一手となるはずです。そのためにも、新しい人や力、資金がどんどん巡る産業にしていきたいと思っています。
- 田中洋介さん
たなか ようすけ|経営者
1979年生まれ。千葉県出身。
Jターンで日本酒の世界に飛び込む。 老舗酒蔵の経営を10年間任されたのち、独立・ 起業しLAGOON BREWERY合同会社を設立。 輸出用日本酒製造免許とその他の醸造酒製造免許を受け、 独自の酒づくりを開始。
LAGOON BREWERY合同会社HP:https://www.lagoon-brewery.com/
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