【LAGOON BREWERY】田中洋介さんのクラフトサケ造りに打ち込んだ1年半を辿る!

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蒸し暑くなってきましたね!
帰ったらとりあえず冷たいビールを…って方も多いのではないでしょうか。

皆さんは、「クラフトサケ」という新ジャンルをご存知ですか?
クラフトビール、クラフトジンは一般的になって来ましたが、最近生まれたのが「クラフトサケ」。
日本酒の製造技術をベースに、従来とは違うプロセスを取り入れて生み出される、新しいお酒です。

今回お話を伺ったのは、クラフトサケ造りに打ち込むLAGOON BREWERYの田中さん。
niigatabaseが初めて田中さんにお話を伺ったのは、約1年半前。 ⇨気になる方はこちらをチェック

大きな挑戦に挑み始めたばかりの頃と比べて、現在の心境や1年半の変化などを伺ってきました。

 

まだまだ、これから

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ーまだオープン前だった前回の取材から、1年半近く経ちましたね。

田中洋介さん:そうですね、前回は酒作りも始めていましたが、出荷はしておらず、酒造りがうまくいくのかと不安だった頃でした。
その後3月に初めて出荷して、様々なところで評価していただいて、今は国内外に販売を広げることができています。まだ軌道に乗ってるとは言えず、まだまだこれからかな、と思っています。

ちょうど昨日、とある新潟県内の皆さんに酒蔵の創業に関する講話をさせていただく機会があったのですが、まだ僕らが作っている「クラフトサケ」という新しいジャンルのこと自体を知らない方が多く、僕が新しく酒蔵を作ったと聞いて驚く方がほとんどでした。

ですが、まだ知られてないということは、これから知ってもらえばいいので、逆に言うと伸びしろがすごく大きい、ということだと思っています。ある意味で、安心しました。

 

ー以前の取材で、前職である【今代司】の経営を再建した頃について、「軌道に乗るまでに3年はかかった」とおっしゃっていました。前職の駆け出し期と今は、似たような感覚なのでしょうか?

田中洋介さん:少し違いますね。あの時は僕自身、業界経験がまだ浅かったので、無我夢中でした。今もそういう面はありますが、前よりも俯瞰して全体が見えていると感じています。これからさらに2、3年あれば、【今代司】時代以上にうまくいくと思える手応えもありますね。

まずは、いろんな方にイベントなどでお話をさせてもらう機会を得て、直接触れて、体験して、知ってもらって、初めて評価してもらえると思います。そういう機会は1年では簡単に作れません。他の酒蔵さんも、100年以上の歴史の中で、何万回も人の目に触れられてきたからこそ今があるんです。まだまだではありますが、むしろ1年目にしては、よくできたと思いますね。


ー初めての出荷はいかがでしたか?

田中洋介さん:新しい酒蔵を作る、ということを知ってもらうために、クラウドファンディングを通してお酒を作ったので、まずはその出資者さんに出荷しました。
一般の消費者の方や、中には販売店の方もいたと思いますが、クラウドファンディングに参加してくれた500人以上の方に返礼品として送り、好評を得ることができました。
その評判と、クラウドファンディングによる話題性をきっかけに、取引先が増えています。

 

日本酒のトップグラウンド新潟で

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ーどうして豊栄の地で事業を始めたのでしょう。

田中洋介さん:もともと豊栄に縁はありませんでしたが、ここの風土が好きで、しかも新潟中心部から30分で来れるので、しばしば来ていたんです。県外や海外からお客さんが来ると、大抵ここに連れてきていました。展望台を上ると、雪が被った山も、広がる田んぼも、天気がよければ佐渡も、新潟の中心街も見えるので、新潟の説明がしやすい場所なんです。

この物件も、訪れた時に偶然見つけて、借りることになりました。この近くで農業をされてる方と付き合いがあったので、直接田んぼを見せてもらうにも、都合がよかったんです。加えて以前から、川や潟、海のそばでやりたいと思っていたので、ぴったりの場所でした。他にもいい所があるかもしれないと思って探し回りましたが、結局ここが1番良さそうだったので決断しました。

以前は飲食店だったようですが、当時は空き家で、基本的な構造はそのままに、壁紙を貼り直したり、土間を新しくしたり、窓を作ったりして改装したんです。


ー新潟に移住することに対しては、どういう思いでしたか?

田中洋介さん:正直、そこまで構えてはいませんでしたね。お酒の仕事がしたくて新潟に来たので、日本酒の世界でトップブランドの新潟で活動するのは、ビジネス的にメリットがあります。文化的には関東と大差はなく、新潟の知り合いもいましたし、あまりハードルは高くありませんでした。以前にはオーストラリアやシンガポールに住んでいたこともあるので、遠くに行く感覚もなかったです。

実際に新潟市に住んでみても、何にも不便はないです。1時間あればスキー場も温泉も行けて、冬の天気が厳しい以外はすごく便利で住みやすいと思います。唯一残念なのは、千葉にいたころ年中していたサーフィンがあまりできない所ですね。

 

 

スタートはみんな踏ん張りどき

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ーこの1年走り続けてきて、落ち込んだりすることはありましたか?

田中洋介さん:経営が難しくて、ある意味、低いままでした(笑)
酒造りは、まず原料を一気に仕入れて、数カ月かけて造って、出荷してやっとお金が入ります。他の業界と比べて、格段に収益を得るまでに時間がかかる仕事なんです。当然この1年は、販売先も多くない状態からスタートして、利益も大きくはありません。
でもその状態で、これから売るお酒を造らなければいけないので、そこがしんどいですね。
これは構造上の問題で、歴史ある酒蔵も最初は大変だったはずなので、踏ん張りどころだと思っています

 

ー田中さんが抱える、新しい酒蔵ならではの悩みを相談ができる相手などはいらっしゃるのでしょうか。

田中洋介さん:少ないですが、仲間はいます。去年の6月、全国にいる仲間と、7社でクラフトサケブリュワリー協会を作り、横の繋がりを広げつつあります。新潟からは僕たちだけですが、北は秋田から南は福岡まで、各地から参加しています。商売のスタイルは色々ですが、同じくらいの規模の醸造所が集まっています。
そこで悩みを相談し合ったり、クラフトサケというジャンルを多くの人に知ってもらうために、クラウドファンディングやイベントを行ったりしています。

 

誇りに思える仕事

ークラフトサケの魅力はなんでしょう。

田中洋介さん:まずクラフトサケが生まれた背景には、日本の法律の厳しさがあります。清酒の製造免許を新規で取得するのは不可能で、ようやく輸出用に限り清酒製造免許を受けられるようになったんです。

新しくできた酒造が国内で製造し販売することを許される米ベースのお酒は、「その他の醸造酒」の品目に該当するものだけです。でもこの名前では魅力が伝わらないので、これをクラフトサケと名付けることにしました。

まずは知名度を上げて、カテゴリーとして確立させ、クラフトビールのように、クラフトサケにも親しんで欲しいと思います。

クラフトビールは、普通のビールや日本酒を飲まない人でも楽しめて、若い人にも人気がありますよね。そんなふうに、「日本酒は敷居が高いけど、クラフトサケは楽しい」というように、日本のお酒の堅さを壊せたらいいなと思います。

 

ー田中さんにとって”日本のお酒を作る”ということは、どんな意味を成しているのでしょうか。

田中洋介さん:海外に訪れた際に「日本酒を作っている」と話したら、日本酒好きな外国人からサインを求められたことがありました(笑)

近年はそこまでの反応はないと思いますが、日本酒はやはり世界で日本を代表する伝統的なプロダクトなんです。そこに携わっているのはすごく誇らしいです

日本で取れたお米を使う日本酒は、日本の青々とした田園風景を想像させます。そういった風景を残すことにもつながりますし、自然の生き物を育むことにもつながります。日本の里山にとってお酒は大切なんです。そのことも、誇らしく思います。
日本酒に限った話ではありませんが、誇りをもってできる仕事で良かったなと思いますね。

 

日本酒と新潟をもっと先へ

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ー新潟の日本酒文化は近年ますます進展しているように感じます。田中さんはこの成長をどう見ていますか?

田中洋介さん:新潟県、新潟県酒造組合、新潟大学の3つが連携して”日本酒学”が動き出したことは大きな1歩だと思います。国内外にその学びを求めている人はいると思うので、日本酒を分野横断的に学べる場所が初めて生まれたことの意味は大きいですよね。ただ、産業を興すところまではまだハードルが高いと感じています。

僕のようなやり方でも酒造は始められますが、日本酒を製造しても国内で売れないという、大きなディスアドバンテージがあります。もしこれから、免許の制限をクリアして、国内向けにも日本酒を販売できる新たな酒蔵をつくれる環境ができたら、すごいことだと思います。

その先駆けとして、新潟県が日本を牽引していけたらと思うと夢がありますよね

ーそうですね。新潟にしかない大きな価値になりそうです。

田中洋介さん:日本酒学ができてから、他の大学でも似たようなものが生まれていて、新潟以外でも日本酒学の活動は見られそうです。だからこそ、学ぶ先の”起こす”ところまで、自治体と産業界が連携して、つなげられるようにしたいです。それが、新しく酒蔵を作りやすい環境を整えていくことだと思います。

そのためにも、僕のような小さいモデルでも、うまくいってる姿を皆さんに見せないといけないんです。これで僕が失敗してたら、難しいことになってしまうので、なんとかうまく軌道に乗せて、みんなの世話ができるぐらいの余裕が欲しいです。

 

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ークラフトサケを開拓する1人として、その道に興味を持つ方に伝えたいことはありますか?

田中洋介さん:よく「儲かってるんでしょ?」と言われます。確かにSNSなどを見ていると、クラフトサケは新ジャンルとして目立ちやすいので多くの人から認知され、すでに商売としても成功しているように見えるかも知れません。

ただ、現実はそう簡単なものではありません。仲間も含め、僕自身も見えないところで歯を食いしばって何とかやっています。ソーシャルメディアではクラフトサケが話題になっているように見えるかもしれませんが、それは自分に関心のある情報が集まって来やすいメディアだからであって、現実は日本酒好きの人でもまだ飲んだことがないというのがクラフトサケです。もっと言えば、日本酒だって多くの人にとっては日常のものではありません。

酒造りを志す人は、そういう認識に基づいて、それでもやるんだという覚悟は必要だと思います。ただ、覚悟さえあれば、死にはしないし、道は開きます。酒造りを志す上で、比較的小さな投資で始められるこのスタイルは、きっとこれからも意志と覚悟ある人々によって広がっていくと思いますし、LAGOON BREWERYにも創業以来何人もの方々が関心を持って見学に来てくれたり、インターンを希望されています。クラフトサケをやっているメンバーはオープンだし、シェア文化があると思っているので、先人たちのドアをどんどん叩いて、学びに行って、時には厳しい現実を見せつけられながら自分の覚悟を確かめてほしいと思います。そうすればきっと道は開くと思います。

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***

 

今回、約1年半ぶりにLAGOON BREWERY田中洋介さんにお話を伺いました。

LAGOON BREWERYスタート直前にお話を聞かせていただき、こうして再び取材できて、皆さんに届けることができている。
それ自体が何よりも嬉しいことです。
6月3日をもって、niigatabaseはちょうど1周年を迎えます。あぁ、感慨深いな〜。

メディア誕生前からお世話になっている田中さん。
これからもお互いに良い刺激を与え合っていけるよう、私たちも頑張っていきます!

田中洋介さん
たなか ようすけ|経営者


1979年生まれ。千葉県出身。Jターンで日本酒の世界に飛び込む。老舗酒蔵の経営を10年間任されたのち、独立・起業しLAGOON BREWERY合同会社を設立。輸出用日本酒製造免許とその他の醸造酒製造免許を受け、独自の酒づくりを開始。
LAGOON BREWERY合同会社HP:https://www.lagoon-brewery.com/

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