先生も生徒も、自分らしくいられる環境を作りたい!教育系パラレルワーカー木村有希さんが考える教育の本質とは

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今回は約1年半前に取材させていただいた木村有希さんへ、再び取材してきました!

最初の取材時は教育系NPO法人みらいずworksを中心に、探究学習の学外プログラムに携わっていた木村さんですが、現在はエドテック(Edtech)系スタートアップ企業の(株)LX DESIGNやその他の企業や団体とのお仕事で県外・国外を動き回っておられる様子。

その働き方や考え方にどのような変化や進展があったのか、お話を伺ってきました!

1年半前の記事はこちら!

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本当に自分がやりたかったこと

ー前回の取材から1年半、木村さんのお仕事に変化はありましたか?

木村有希さん:初めて取材していただいた1年半前は、みらいずworksでの教育のお仕事がメインで、他では別ジャンルのお仕事をしていました。

今は「複業先生」を展開しているエドテック系スタートアップ企業の(株)LX DESIGNを中心にしつつ、みらいずworksや他の企業、団体の方ともお仕事をする機会が多くなりました。教育のお仕事のみで活動しており、特に学校の先生たちをサポートするお仕事がメインになりましたね。

ポリシーメイキング(証拠に基づく政策立案)、ルールメイキング(立場や意見の違う人たちと対話を通してルールを見直す手法)を通した改革が進むように取り組んでいるところです。

 

ー木村さんが学校教育に対してやりたいと思っていたことが今できているのですね。

木村有希さん:そうかもしれません。みらいずworksでやっていた「探求schoolつくつく」での経験やアメリカ、フィンランド、日本国内を多数回った経験から、学校に行かない選択をした子どもや、学校でやりたいことがあるのに、雑務の忙しさに疲弊して子どもたちに向き合えない先生が溢れていることに気づき、学校教育を根本から変えたいという思いが強く芽生えました。

1つの地域のみで活動するのは、できることが限られているので、LX DESIGN、別の県や市、企業からのお仕事も受けるようになって。そうするうちに、新潟の教育を変えたいというよりも、「子どもたちが自分らしく人生を歩めるような社会をつくる」という目標ができてきたんです。その手前に、私は先生たちが自分らしく生きることができるような環境をつくりたい、地域関係なく先生たちの可能性をより引き出せるような仕事がしたかったんだなと気づきました。

 

向き合うほどに見えてきた課題

ー「子どもたち」の前に「先生たち」に視点が向いたきっかけは何だったのでしょうか?

木村有希さん:学校教育の現場で、実際に先生や子どもたちと対峙して、限界を感じたんです。1人1人と関わってその人のモチベーションが上がることはすごく嬉しいこと。だけど、それでも変わらない”大きな何か”があって、結局その人たちがつぶれてしまうことってすごく悲しい。その大きなものを変えることにチャレンジしたいと思いました。

大きな制度を変えることって1人では難しいけど、一緒になってやってくれる人たちが私の周りには沢山います。LX DESIGNを筆頭とした、共に働いてくれる方々も同じような想いがあるので、この1年半、前向きに試行錯誤することができています。

 

ー”大きな何か”に直面しているのに、すごくポジティブな空気感をまとって話す木村さんの姿、素敵ですね!

木村有希さん:教育業界には課題がたくさんありますが、先生も保護者も地域の方々も、教育に想いを持っている人たちはみんな、子どもたちが自分らしくありのままに、やりたいことをきちんと突き詰められる環境を整えられることを最終ゴールにしています。「良い教育」の定義はそれぞれ。でも教育業界って「次の世代がよりよくなってほしい、だから教育は大切だ」と思っている人の集まりなんです。

だから誰も悪くない。彼らの正義や常識の中で立ち向かって、何かを頑張っているんじゃないかと思います。その頑張りはできるだけ受け入れたいし、社会的にも認められるべきです

私はその先生たちの地位向上に力を入れています。「先生」という職のマイナス面が際立っている現状のままでは、先生をやりたい人が少なくなるし、先生が不人気な職業では質も低下しますよね。そのためにまず「先生ってこんな素晴らしい仕事なんだよ」ときちんと伝えていきたいんです。

 

ーこの1年で木村さんの教育に対する”軸”が見えてきたのですね。

木村有希さん:そうですね。
前までは、教育に携わるお仕事ができればいいかな程度に思っており、今と比べると志や軸が弱かった気がします。でも、LX DESIGNや教育委員会など、教育と真剣に向き合っている方々に出会ったおかげで「そもそも何がやりたいんだっけ?」と問い直すことができ、最終的に私のファーストキャリアである「先生を全力でサポートすること」に行きつくことができました。

 

先生と生徒の可能性を引き出すために

ー「先生」の地位向上のため、木村さんはどんなことをしていきたいですか?

木村有希さん:時代の変化が激しい中で「今、先生に求められていることはなんだろう」「先生がやらなくても、他の誰かに任せてもいいことがあるんじゃないか」と、「先生」という役割を問い直し、「先生」の新しい価値を学校と一緒につくっていきたいです。そうして学校や教育委員会の方々と一緒に、新しい学校の仕組みをつくっていけたらなと考えています。

今の時代、1人1台の端末を持つようになった子どもたちは、やる気さえあれば24時間いつでも動画コンテンツなどで勉強ができます。教科の知識を教えたり、黒板に教科書の内容を書くことはもうタブレット端末、ITがやってくれます。そんな中で、先生の根本的な価値は”生徒たちを目の前で見ていること”にあります。先生が今まで通りの授業をやるよりも、ファシリテーションやコーチングに注力していって欲しい。将来的に先生の役割は、地域や外部人材と生徒の間に立ってコミュニケーションを図ることだと考えています。

しかし、もちろんティーチングがしたくて先生になった方々もいます。もしかしたら、多くの教育者にとって私の考えていることは受け入れ難いことかもしれません。そしてもちろん、科目の知識を教えることが完全に要らない訳でもありません。

伝えたいことは、ITや他の人に任せられることは任せた方がより効率的で、先生にとっても子どもたちと向き合う仕事に専念できるということです。それを多くの方々にどう伝えていくか、どうしたら先生たちの可能性を最大限に引き出しながら子どもたちの可能性を引き出すことができるのか、模索したいところです。

「ファシリテーション」…組織において、相互理解を促しながら合意形成し、問題解決を促進すること。
「コーチング」…相手の話に耳を傾け、観察や質問、提案などをして内面にある答えを引き出すこと。
「ティーチング」…相手に自分の知識やノウハウを伝えること。

 

リスキリングでさらなる挑戦

ーそういったこともあって、アメリカの大学院にオンライン留学されたのですね?

木村有希さん:まさにその通りです。私自身もっとアカデミックな知識を根拠にして、教育の本質を捉え、伝えていきたいと思ったので留学を決意しました。

今、キャリア教育やプロジェクト学習など、教育の改革がなされてきていますが、それがアディショナル(追加的)なものではなく、不要なものを取り除いて本質を見れるものにしていきたいのです。私のキャリア生涯をもって、どこまでやり遂げられるかはわかりませんが、私自身はもう教育を体形的な視点で見てしまっていますから、とことんその改革に挑んで全うしていきたいと思っています。

 

ー先生に求められることは、ティーチングからコーチングやファシリテーションへ。それってテストの平均点などで先生自身の成果が見えるものではなく、生徒の自立だったり内面に働きかけるものということで、難しさがあるように感じるのですが?

木村有希さん:そうかもしれませんが、それこそが”教育”なんですよね。先生たちは、ただ自分が好きな科目をずっと学んでいたくて先生になった訳ではないはずです。本来、”教える”ことがしたくて先生になっているので、実は根本にかえるだけの話なんです。

ちょうど最近、大学院でジョン・デューイの教育論について学び直したところなんですが、この分野は教育学部に通われた方なら必ず最初に学ぶ内容です。私は大学1年で学んだことなので忘れかけてしまっていた内容なのですが(笑)

デューイの教育論にはまさに人間の自発性を重視した、成長を促すための環境を整えるのが教育の役割だということが述べられています。
だから、今まさに新しいことのように言われている学習手法たちは、実は教育の本質にかえっている作業の途中であるだけなんです。

こういったことを、大学院で学び直して、私自身も本質を見つめて前進していきたいですね。

 

木村 有希さん
きむら ゆき学びクリエイター


1992年新潟市生まれ。大学時代にフィンランドの学校で1年間インターンを経て、卒業後、大阪府にて高校教員として3年間働き、多様な子どもたちとともに教員生活を送る。就職面接指導をする中で、自分が学校以外の社会を知らないことにモヤモヤを覚え、「リアルなキャリア教育を実践するためには、自分自身にもリアルな経験が必要」と、企業の海外営業へ転職。現在は、エドテック(Edtech)系スタートアップ企業の(株)LX DESIGNやその他の企業や団体とのパラレルキャリアを描きながら、教育の未来へ力を尽くしている。2023年9月からは米国教育省認定の高等教育機関「University of the People(ユニバーシティオブザピープル)」へオンライン留学中。

株式会社LX DESIGN:https://lxdesign.me/