「日常を楽しもう」をコンセプトに、新潟市上古町を拠点にして活動するクリエイト集団hickory03travelers(ヒッコリースリートラベラーズ)の代表 迫一成さん。
イラスト、グラフィックデザイン、ブランディング、制作、空間デザイン、商店街を楽しむ活動など、広義のデザインを体現する迫さんの活動には、学びを求める人が県内外から集まります。
今回は、迫さんのこれまでと現在の視点から、日常を楽しむためのエッセンスを覗かせていただきました。
迫 一成さん Sako Kazunari
hickory03travelers・合同会社アレコレ代表
1978年 福岡県生まれ。新潟大学人文学部卒業。2001年クリエイト集団ヒッコリースリートラベラーズを結成。幅広いデザイン事業を展開し、新潟市土産品コンクール金賞(2010)、新潟県知事賞最優秀賞(2012)、地域に根ざしたデザイン活動でグッドデザイン賞受賞(2014)など、さまざまな成績を残している。現在は上古町商店街に構える築90年の木造家屋を店舗として活用。地域に根差し、デザインの力を活かした商店街活動は全国的に注目されている。
迫さんのルーツはどこか
ーー広義のデザインの視点から、まちやモノの価値を見つめ直す迫さん。その原点は大学時代にあるように思いますが、当時のことを伺ってもいいでしょうか。
迫一成さん:僕は高校まで福岡にいて、大学進学で新潟にきました。
大学では社会学や心理学を専攻していたのですが、大学の授業ってなんだか難しいじゃないですか。正確にいうと、難しい言葉を使って難しく説明される。これをもう少し分かりやすく伝えられたらいいのにな、とぼんやり感じていたんです。
そんなある時、サークル活動で足を怪我をして2週間くらいほとんど活動できなくなってしまい、ふと「自分の人生ってこれでいいのかな〜」と考えたことがあったんです。その時に自分自身を辿ってみて、「分かりやすい言葉と絵で、”伝える”ということができたらいいな」と思ったんです。幼い頃、絵を描くことが好きで、絵画を習っていたことがあったので、それも少し影響していますね。
試しにいくつか描いて周囲に見せてみると、上手だねと褒めてもらえて自信がついたりもして。そういった中で、世界のいろんなものを見るために、大学生のうちに海外にも行ったりしました。
ーー海外には、どんなものを見に行かれたのでしょうか?
迫一成さん:僕自身がまだ知らないものを知るために海外に行っていたので、面白いこと、場所、人にたくさん出会いました。自分の人生を切り開こうとする日本人にもたくさん出会えて、自分が考える以上に世界はもっと自由なんだと感じました。
そんな気づきを得る中で、僕の中での”伝える”感覚も養われていった気がします。
(迫さんはその後、大学4年次に絵本作家になるべく東京のスクールに進学され、そこで出会った方と卒業後に新潟の西堀ローサにてオリジナルデザインTシャツショップを開店されます)
「まち」というキャンバスに何を描くか
ーーその時になぜ新潟を選んだのかは「居心地の良さを感じていたし、土地勘があったから」と他の取材にて発言されていますが、当時の迫さんは新潟のまちにどんな居心地の良さを感じていたのでしょうか?
迫一成さん:都会的よりも生活感が感じられる場所、ピシッとしたものよりも自然体なもの、かっこつけているものよりも素朴なものといったように、僕は等身大なものが好きという感覚があります。ここ(新潟市古町〜西堀エリア)に拠点を構えたことに関してはたまたまではあるのですが、必ずスーツを着て働かなければいけない雰囲気はあまりない。みなさんが自分らしく好きに生きているこのまちの雰囲気が僕にとって居心地がいいんですよね。
ーー西堀から古町に店舗を移される中で、迫さんの活動は商店街に溶け込んでいかれたように感じるのですが、その当時は「商店街をこうしたい」などの狙いなどお持ちだったのでしょうか?
迫一成さん:商店街にあるものにはそれを築き上げてきたご本人が気付いていないような価値がたくさんあるので、それをみんな(店主や来訪者)にも見つけてほしいと思っていました。まち全体や地域全体を良くしようという目標というよりも、まるでSNSのように「このお店のこれ、いいよね!」を一つずつやっていたつもりです。そこに、大学時代に学んでいた社会学のエッセンスなども少し混ざっていて、モノの印象を良くするための実験をやっては検証してみたりしている、そんな感覚でしたね。まちや商店街をキャンバスにして、遊ぶように楽しそうなことをやっていったらメディアが取り上げてくれたりもして。
僕自身としては、人がしていないことをしたい、まちの人たちが気づいていない価値をみんなにも見つけてほしいと思っていただけなんですよね。
ーー「遊ぶように面白いこと」を20年以上やり続けられていることに、本質があると感じています。”生み出し続ける”ができていることを、ご自身ではどう感じられていますか?
迫一成さん:上古町という場所が、面白いことをしやすいまちだったこともあるかもしれません。
年上の方に勝手に方針決定されるとか、ダメと言われるわけでもないから。
中でも、商店街の理事の1人で時計やライターなどを取り揃えているお店の店主 百貨さかいの社長酒井幸男さんには、たくさん気にかけてもらったり、一緒に企画を考えたり実行したり、お世話になってきました。
いろんなことをしていくと商店街の方から、当然ですがさまざまなアドバイスや意見、ご指摘をいただくんです。僕もたくさんの声をいただきました。そういうことに疲れちゃうパターンなどもあると思うのですが、僕は自分なりに折り合いをつけようとしていた気がします。難しさを感じつつも、僕なりに。
ーーそういった時の迫さんの考えの軸となっていたものはなんだったのでしょうか?
迫一成さん:何よりも、「”まち”をもっと良くしたい」という気持ちを大事にしていました。
そして誰よりも実際に向き合おうと行動していたつもりなので、何が正解かは分からないけど、その事実が味方になってくれた気がします。
そういった、新しいことをやる難しさを感じてきた経験が、今は僕自身の糧になってくれていたりもします。同じように”まち”をフィールドに新しいことをしている人から相談や依頼をいただくこともあるのですが、その難しさを分かった上で、ちょっと見せ方を変えるだけでぐっと印象が変わることを、経験を基にお話しできるので。
ーー表面的なデザインの話ではなく、本質を捉えて寄り添うことができている、ということでしょうか。
迫一成さん:そうですね。例えば、「活性化」って一概に言っても、単に人がいればいいわけではないですし、地域への愛着だったり密度が大切だと思うんです。ただイベントをやればいいわけでもないけど、例えば昔からの伝統的なお祭りがある地域にあるような、あの繋がり感が大切だったり。そういうものを描いていくためには何ができるのか、と提案者でもあり経験者でもある立場から寄り添うことで、本質を捉えることが少しずつ得意になってきているんじゃないかって気はしてるんですよね。
大切なものと これからも
ーー迫さんは「デザイナー」というよりも、課題や目標に対して本質を共に見つつ、伴走してくれるパートナーといった存在でもあるのでしょうね。
迫一成さん:肩書きや定まったポジションは無くてもいいんですよね。相談にのって、デザインしたり、今やった方がいいんじゃないかなってことを提案したりして、複合的なのがいいんじゃないかなと思ったりもしています。
hickory03travelersのみんなとも「自分達って何している人たちなのか分かりにくいよね」と話しているんですけどね(笑)
実際にいただくご要望としては、商品開発やイベント・プロジェクト企画などの相談が多いです。例えば「地域の野菜をブランド化したい」「シーズンのイベント企画と、その集客がしたい」など。
ご相談をいただいたら、何をどうしたいのかヒアリングするところから始まり、やってみよう!となったものは色々やるので、ほんとクリエイター集団と言い表すのが、現状一番しっくりきているんです。
ーーまさに『日常を楽しむ』を大切にモノゴトを捉えるクリエイター集団ですね。
では、迫さんがこれからやりたいことや、これからも活動をするうえで、大切にしていきたいことは何でしょうか?
迫一成さん:明確にこれからこれがしたいと思うことはあんまりないですね。今までもずっとそうだったのかもしれないです。
これからも、自分にとってちょっと難しいこと、でも誰かに喜んでもらえるようなことをやって、自分自身もスキルアップしたいし、いい成果を出したいです。
そしてやっぱりイラストやデザインが好きだから、美しい、楽しい、かわいいと言ってもらえる質の高いもの、かつ機能性や役に立つものづくりをして、それを世の中に出していきたいです。
やはりhickory03travelersは『日常を楽しむ』というテーマで活動しているので、仕事として責任を持ちながら、遊ぶように楽しく、日常の中のものを肯定しながらアップグレードしていくような活動をしていきたいです。