【子育てを考える Vol.1】アントレプレナーの視点から見る、時代に求められる子どもとは

VUCAの時代、親が子どもにしてあげられることは何か。
それは、子どもをよく見て、気付いて、特性が伸びる環境を整えてあげること。
ですが、わかっていても言葉で綴っているほど実際の子育ては簡単ではないですよね。

この企画では、さまざまな領域で活躍する方々に、それぞれの専門領域から見る子育ての持論や気づきを教えていただきます。
各業界のトップランナーは、子どもたちをどんな視点で見て、そのどんな部分に気づきを得ているのか。
その視点を知ってみると、あなたの我が子を見る角度がちょっとだけ変わるかもしれません。

 

お話を伺った伊藤先生とは、こんな方!

伊藤 龍史(いとう りょうじ)さん

伊藤 龍史 先生

新潟大学 経済科学部 准教授
福岡県福岡市出身。早稲田大学卒業後、早稲田大学大学院商学研究科修士課程・博士後期課程、早稲田大学産業経営研究所助手を経て、2009年新潟大学経済学部・大学院現代社会文化研究科講師に就任。14年同准教授。20年、改組に伴い経済科学部准教授。サンノゼ州立大学ビジネススクール客員研究員(2012年〜2013年)、ソウル科学技術大学招聘副教授(2014年)など。
専門分野は、ベンチャー経営戦略論、ベンチャーマーケティング論、および顧客アントレプレナーシップ研究。

2018年と2020年、国際学会「ASBBS(American Society of Business and Behavioral Sciences)」において学会賞「Best Paper Award(最優秀論文賞)」を2度受賞。2020年、新潟大学学長賞(若手教員研究奨励)受賞。2022年、新潟ベンチャーアワードにおいて伊藤研究室の教育研究活動が「アシスト賞」と「オーディエンス賞」をダブル受賞。
現在、新潟ベンチャー協会(NVA)アドバイザー、にいがた産業創造機構(NICO)理事などにも就任。

 

大学教授を父に持つご家庭に生まれ育った伊藤先生。ご自身は現在、高校生と中学生のお子さんを育てる”お父さん”です。

大学卒業時に、大学の教員かホテルコンシェルジュの道で迷われていたなか、先に大学院受験に合格したことでホテルコンシェルジュは断念し、大学教員を目指すことを決意。

主にオフショアリング(企業の海外アウトソーシング)の研究をしつつ新潟大学へ赴任することとなる。しかし、新潟での調査を開始するも、そもそも新潟に海外アウトソーシングの知識や事例がないことが分かり、戸惑いを感じたと言います。

 

伊藤 龍史 先生

新潟大学への赴任当初、研究対象がないことで途方に暮れ「早く他のところ(研究機関)に行かなければ」とも思いました。しかし、ある時それがとってもダサい考えであることに気がついたんです。

居心地が悪いところを、よくなる努力もせずに移ろうとしている発想ですし、要するに置かれた環境で自分を決めているようで。

 

何か行き詰まった時は、ほぼ必ず出身校である早稲田大学へ行き、慕っている先生へ相談をするという伊藤先生。新潟での新たな研究テーマとの出会いや、未来を思い描こうと模索されていた頃も、何度か早稲田大学を訪れていたそうです。

 

伊藤 龍史 先生

自分の研究テーマであるオフショアリングを行うような企業は、当時の新潟にはない。けれど、中小企業やベンチャー企業などに向けて講演させていただく機会は増えてきたので、そういう研究に切り替えようと思う、と慕っている教授に相談しに行った時のこと。

その先生は「いいじゃん!置かれた状況を活用して研究をすることは自分にとっても周囲にとってもきっといいことに繋がるよ」と背中を押してくださいました。

そこで迷いが吹っ切れて、ベンチャー企業の研究に切り替えることができたんです。

 

ベンチャー企業の海外進出などについて研究しているタイミングで、一時的にご自身の拠点も米シリコンバレーへと移り、世界の大企業の海外アウトソーシングなどの事例を研究する中で現在の研究分野であるカスタマー(顧客)アントレプレナーシップなどにも広がっていきました。

 

伊藤 龍史 先生

自分のやりたい研究をしているのはもちろんなのですが、結局置かれた状況を逆手にとって活用しながら研究を深めていったのが今の私自身だと思っております。

だからこそ、その時代や環境に適応して、目の前のことから課題を見つけ、探究していく力の大切さを身をもって感じているところではあります。

 

以下、インタビュー形式で伊藤先生の子育てに関する考えをご紹介します。

アントレプレナーの視点から、子育てをみる

ー伊藤先生は普段から講演会などで、アントレプレナーシップの感度が高い学生たちと接することが多いと思います。そこにいるような”感度が高い、尖った何かを持っている子”を育てるには、どんな環境が必要なのでしょうか。

伊藤龍史先生:子どもの得意を伸ばすことがマストではあるのでしょうね。

”尖った子・感度高い子”って、地方よりも都心の方が多いことが実情から見て取れると思います。しかしそれって多分、尖った大人や面白い大人と出会える頻度だと思うんです。

新潟にも尖った面白い大人はたくさんいます。そういった人たちがもっと若者と出会える、交流できる場が新潟にも広がったら良いですよね。

 

ー確かにそうですね。地方にいて感じるのは、大人は安定的な経済力を持つことが正義とされていて、楽しいことや自分の尖った部分に没頭している人って、否定される風潮さえもある気がします。

伊藤龍史先生:大人たちにとって、どこか「子どもには大人としてふさわしい顔、一般的な大人たる顔を見せましょう」みたいな風潮ってありますよね。

そうすると子どもにとっての「大人」って、なんとなくみんな似通ったイメージになっているんじゃないかな。ぼんやりと、”型にハマっているようなものが大人”って。

でもそれでは、大人になってからの人生の楽しさや面白さを伝えられてはいないのかもしれません。

悪いことをしている姿は見せない方がいいですけど、「実はこんなことが好きなんだ」とか話したりして、何かに没頭している大人の姿をもっと子どもたちに見せられたらいいですよね。

 

ー伊藤先生が出会う中高生たちって、何か共通点などがあったりするのでしょうか?

伊藤龍史先生:私も、アントレプレナーの講話などに出席してくれる子や、プロジェクト学習などで出会う学生には、色々と話を聞くようにしていまして、どうしたらこの子たちのように探究心の強い子になるものかと探っているんです(笑)

分かったことは、親御さんの職業や置かれている環境などは本当に多種多様で規則性はなかったのですが、みんな決まって親御さんとよく会話をしているということでした。

いろいろと話している中で、学生たちからは「うちの親おしゃべりなんです(笑)」やら「うちの親うるさいんです(笑)」という発言が多く聞かれました。

これは”口うるさい”ではなく、親自身が子どもに好きなことや考えていることなどを話してくる、という意味でした。

きっと大人が自分の好きなものや熱中しているものを子どもに見せたり話したりすることによって、子どもも好きなことや興味があることに没頭しやすくなるのではないでしょうか。それが子どもの思考や探究心には、大きな影響を与えるのではないかと私は考えています。

 

ーなるほど。伊藤先生ご自身も、それを実感したようなご経験はあるのでしょうか。

伊藤龍史先生:まさに私自身もそれを実感した経験があるんです。

先ほども話したように、私は行き詰まったりすると出身である大学の研究室を訪れるのですが、その時は私がやっている研究自体は学生の興味関心に触れているのかと悩んでいる時でした。有難いことに、私のゼミは多くの学生たちが関心を持ってくれ、熱心に活動してくれています。しかし、それはゼミで行っている活動に対してのことであって、私の研究内容に関してはどうなのだろうか、と。
そんな悩みを恩師に打ち明けていた時、「伊藤くん自身が、研究を楽しんでやっているの?」といったニュアンスで聞かれたんです。

私はそれまで、研究は楽しむものよりも真面目に取り組むものとしか考えられていなかったので、その一言にはハッとさせられましたね。

楽しそうに取り組んでいない人に、周囲の関心や意識は集められないのかもしれません

“楽しい・好き”を後回しにして、”真面目・一生懸命”だけを優先することは、悪いわけではないですが、時に悩みの種になりうるものだなと実感しました。

子育ても、同じなのかもしれないですね。

 

***

 

この企画はさまざまな領域で活躍する方々に、それぞれの専門領域から見る子育ての持論や気づいたことを教えていただくものです。
子育ての専門家ではないため、この記事にある内容はあくまでもご自身の経験による”気づき”です。

しかし、伊藤先生のように子どもから学ぶ姿勢や、共に考える姿は全ての親に必要なこと。

この記事を最後まで読んでくださったあなたは、今日、我が子をどんな視点で見ますか?
そして、自分自身をどう見つめますか?