キャリア教育に人生をかける!民間セールスマン育ちの宮崎芳史先生がマイプロにかける思い

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今回は新潟県高校教諭 宮崎芳史先生にインタビューしてきました!

前半の記事では、宮崎先生のライフテーマでもある「主体性とローカル」について、その原点や教育へ辿り着くまでのお話をご紹介しています。記事はこちら⇩

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今回は、niigatabaseでも何度か取り上げている実践型探求学習『マイプロジェクト』を新潟県ではじめて運営し、本職である高校教諭の傍ら、さまざまな場面で若者の探求学習・キャリア教育に貢献されている宮崎芳史先生に取材してきました。 […]

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さて、この記事でご紹介するのは「宮崎先生のキャリア教育にかける想い」です。

 

NIIGATA マイプロジェクト☆LABOとは

インタビューに入る前に、宮崎先生がキャリア教育の側面でどのような活動を行ってきたのか、そして今多くの生徒たちの輝きを引き出している「マイプロジェクト」についてをご紹介します!

NIIGATAマイプロジェクト☆LABO立ち上げのきっかけとなったのは、宮崎先生が前任校で取り組んだ「佐渡を豊かにする中等生PROJET」です。2019年に地域・コミュニティづくり分野でグッドデザイン賞も受賞し、生徒の変容と取り組みの手応えが、”新潟県をマイプロ先進県にする”という宮崎先生自身のマイプロへと繋がりました。(2019年グッドデザイン賞の受賞概要はこちら

全国高校生マイプロジェクト新潟県地域パートナーである「NIIGATA マイプロジェクト☆LABO」とは、高校生や大学生自らが興味を持ったテーマに対して、ビジョン設計・課題設定とアクション(行動)とリフレクション(内省)を繰り返して探究していく学びのプログラムです。学生という枠を飛び越えて、”想い”のもとで自由にプロジェクトを形にしていきます。

現代の若者は、ある意味生まれながらに閉塞感がある世代なのかもしれません。生まれてからずっと日本の経済は停滞しており、少子高齢化による社会構造的な問題を抱え、地球環境問題は深刻化しています。このままでは日本・地球どうなってしまうの?と思うようなニュースばかりが耳に入ってきますよね。そんな中で、将来に希望を持てないのは当然のことなのかもしれません。

しかし、
“そんな時代だからこそ、「今が一番面白い!ワクワクする!」「ここ(地元・新潟・ローカル)が一番面白い!」と子どもたちが言える状況や未来を創りたい”

と宮崎先生は語ります。

これには逆転の発想が必要です。
そんな発想を多くの子どもたちができるようにするため、大人たちには何ができるのか。宮崎先生はさらにこう続けます。

“諦めたくなるのが普通かもしれないけど、逆境の中でも未来を明るく思えるやり方や発想ってあるはず。私は、「マイプロジェクト」によってそれが創り出せると思っています。NIIGATAマイプロは、前任校で取り組んだ「佐渡を豊かにする中等生PROJECT」から始まったのですが、佐渡では「何もない・つまらない・早く出たい」と語る高校生が多い中で、参加した高校生は「ないものは自分で創り出せばいい」「学生だからできないことはない」と語ってくれるようになりました。何もない絶望的に感じるような状況であっても、本当の意味の豊かさは自分の力で創り出すことができる、私はそう信じています

 

民間育ちだから教えられること

ー教員になってやりたいことや、教育の外の世界にいたからこそ課題だと思ったことは何でしょう?

宮崎芳史さん:教員を目指す中で、民間企業出身の自分にしかできない強みは何かと考えていた時に「キャリア教育」と出会いました。当時、新潟で先進的にキャリア教育を推進していた教員とのご縁もあり、キャリア教育の話を聞いた時には「これだ!」と思いました。まさに自分は、これをやるために教員になりたいんだ、人生をかけてここに向き合ってもいい、そう思えるような出会いでした。そして、今はマイプロこそが究極のキャリア教育だと思っています。

キャリア教育で目指していることを実現するために、全ての教育活動を社会に繋げ、社会に必要な力が身につくものにしていこうと思いました。そのためには、大きく3つの課題があると考えたんです。

1つ目は、高校と地域・社会との繋がりがないということです。当時、岐阜県高校教諭だった浦崎太郞先生(現大正大学教授)が「高校が地域にとっての人材流出装置になっている」とおっしゃっていたことにも大いに共感しました。高校では、社会との繋がりがないまま、教員も生徒もより良い大学に進学することだけを目指しがちです。地域の豊かさと向き合う時間はほとんどありませんし、社会に必要な力を感じることもありません。それでは、大学を卒業する時もそれ以降も地元へ戻ってこようとは思いませんし、ローカルの価値・豊かさに気付くこともなく、地域・社会への参画意識や主体性のないままに、自分のためだけに進学する生徒を育てているかもしれないと思うようになりました。

2つ目は、高校の授業って社会で役に立っている?ということ。もちろん勉強は大事なのですが、民間企業においては、コミュニケーション能力や主体性・創造力などの方が学校の教科の勉強よりも役に立つことが多かったと思います。そして私の場合、これらのほとんどは部活動を通じて培われたように感じていました。しかし、もちろん、部活動をやっていなくても社会で役立つ能力を身につけられるのが、本来の学校のあるべき姿だろうと思いましたね。ただ、主体的・協働的・探究的な学びが導入されるようになって、この辺りはかなり変わってきたなと感じています。

3つ目は、新しい取り組みに対する逆風です。キャリア教育を理解していく中で、結局のところ教科も部活も学校生活も全てをキャリア教育につなげていくことが大切なんだと分かりました。しかし、「キャリア教育」ということが言われ始めたばかりの時は、あたかも新しいものが入ってきたように思われていたところがあります。今までやってきたことを否定する、新しい”追加業務”が降ってきたように。私が教員になった当初はまだ教育業界全体でキャリア教育に対する「逆風」が吹いていました。しかし、私はあいにく「逆風」には燃える性分です(笑)。教員になってからも、全国のキャリア教育に関する勉強会に参加したり、赴任校で独自の地域プログラムをしてみたり、とにかくキャリア教育の実現を目指して奔走していました。

 

教育の現場に入って気づいたこと

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2019年「グッドデザイン賞」を受賞した地域と若者を繋ぐ課外学習プログラム【佐渡を豊かにする「中等生PROJECT」】

ー教員になる前となってからで、考えが変わったことや気づいたことはありますか?

宮崎芳史さん:やりたいことや目指したいものに変化はありませんね。キャリア教育に対する逆風も思った通りだったのですが、目標達成に向けた「マネジメント」の捉え方に関しては、民間企業とこうも違いがあるのかと感じたこともあります。常に、新しいことに取り組む・高い目標に挑戦することが当たり前の民間企業からすると、前例踏襲的な文化には違和感を感じることもありました。

とはいえ、新しいことをやらない先生方が悪いわけではない。どの先生方も精一杯、生徒たちのために働いています。そんな中で、教員の世界は、新しいことを取り入れて現状の教育(または自分自身)を越えていこうとしても、誰に褒められることも、目に見えた評価が上がるといったこともありません。自分が学びをアップデートしていくことで、生徒たちが成長し、感謝され、、、そこには確かなやりがいがあるんですが、教員自身には学ぶ場がなく、給料もあがらない。それを自分で得ようとすれば、莫大な時間と労力、ときに費用がかかる。そんな中でみんなに無償で努力をさせるのは「やりがい搾取」かもしれません。これがある意味、私の変化や気づきです。だからこそ、学校の外にも仕掛けが必要なのではないかと考えるようになりました。

 

どんな生き方がしたいのか

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ーその上でお聞きしますが、宮崎教員はなぜそこまでマイプロジェクトをはじめとしたキャリア教育に力を注げるのでしょうか?

宮崎芳史さん:“志”ただそれだけですね。教育を通じて、主体的に地域・社会に豊かさや価値を生み出す人を増やしていくことは、社会を変えていく挑戦でもあり、長期的・多角的な視点で「本当の豊かさを生み出すには?」という自分の問いと向き合うことでもあります。

もう少し言うと、私は歴史教員として、歴史を学ぶことは歴史を創ることだと思っているんです。過去を振り返ることは人類のリフレクション(内省)であり、未来に繋げるためにやっていることだと思っています。私の場合、特に江戸時代から明治へと移り変わる「幕末の時代」が好きで、苦労の絶えない激動の時代を生きた方々に強い憧れと尊敬の想いがあります。幕末の人たちが自ら学びを得て世の中を変えていったあの時代は、今の時代とも似ていると思っていて。未来が不明確な中で、学びをもって自身をアップデートさせ、未来社会にアプローチしていく。まさに私たちがマイプロジェクトで掲げている「人生の舵を取れ!自分の未来も、社会の未来も、自分の力で変えられる」という言葉そのもののような生き方だと思います。決して生きやすい時代ではなかったと思いますが、だからこそ、「人はなぜ生きるのか?」「人はなぜ学ぶのか?」、そんな問いを幕末から投げかけられているように思います。私も、夢をもって主体的に生き、人生をかけてローカルから社会を動かすような、そんな生き方がしたいと思っています!

 

いま求められている学び・生徒観

ー私の学生時代などは、いわゆる「熱血教師」のような熱く教えてくれる教員が理想とされていましたけど、今の教育においては違うのだろうなと思います。宮崎先生の立場からはどう思いますか。

宮崎芳史さん:今は学校教育における学び観・生徒観が変化していると思っています。今までの場合、学び=教わるもの。少し受身な生徒像を想定した上で、だからこそ教員が一生懸命に教えなければいけないとされてきました。
しかし、これからの教育は、学び=主体的にやるもの・自分が好きだからやるもの・自ら問いを立てて学びを深めていくものになっていくと思います。自らが目指す未来に向かって、主体的に学びを深めていける人を増やしていくことが目的です。教員は、生徒が自走できるように、内発的動機付けを高めていけるようにすることが理想ですね。

そういったことを考えると、いわゆる「熱血教師」は与える教員になってしまいがちだと思うんです。自分が意図しているかは別で、結果としてそうなってしまう。
だから、むしろ私は「何もしないよ、自分で考えてやってみな」と言いながら環境を整えていく、学びとコミュニティのデザイナーやプロデューサーのような存在でいたいと思うようになりました。

生徒は、自分で考えて挑戦できる。そこには本気になれる環境があって、励まされる仲間がいて、サポートしてくれる大人がいる。やがて、子どもの考えたことに大人を巻き込んでいく、なんてことが多くの教育現場で見られるようになったらいいですよね。
しかし、それにはコミュニティの存在が必要です。だからこそNIIGATAマイプロがあるんです。
生徒が自走できる環境を目指して、そこを整備することに私は情熱をかけたいし、本気になりたいと思っています。

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今回は新潟県高校教諭 宮崎芳史先生へのインタビューで伺ったお話を、2記事に分けてご紹介しました。

1記事目は、宮崎先生の価値形成につながる原体験について。2記事目のこちらでは、キャリア教育への思いについて。

教育についてさまざまなことを考えさせられる機会となり、私自身も主体的に人生の舵を切っていくために考える刺激を受けました。

みなさんは、宮崎先生の話を読んで、どんなことを感じましたか?

 

宮崎芳史さん
みやざき よしふみ|高校教諭


1985年新発田市生まれ。新潟明訓高校を卒業後、早稲田大学人間科学部人間環境科学科に進学。大手旅行会社の営業を経験し、2014年から新潟県の高校教諭へ転職。前任校ではグッドデザイン賞、ふるさとづくり大賞などを受賞。2020年度からはNIIGATAマイプロジェクト☆LABO実行委員長として、事務局のみらいずworksにもプロボノスタッフとして参画している。

NIIGATAマイプロジェクト☆LABO:https://niigata-mypro-labo.com/
みらいずworks:https://miraisworks.com/

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