今回は農業女子サッカー実業団のFC越後妻有(えちごつまり)に所属している、石渡美里さんにインタビューしました!
石渡さんのこれまでのキャリアから、これからのビジョン、新しいキャリアの作り方を実践されていることに関する思いについてお話いただきました。
サッカーファンの方にも、自身のキャリアについて悩みがある方にも、ぜひ読んでいただきたい記事となりました。
農業×女子サッカー
ーFC越後妻有が発足した背景を教えて下さい!
石渡美里さん:みなさんが想像しているサッカーチームとは少し特色が違うのがFC越後妻有です。
というのも、FC越後妻有は新潟県越後妻有地域で開催されている、「大地の芸術祭」から生まれたプロジェクトで、
「農業×女子サッカー」という形で活動しているチームです。
プロの女子サッカー選手としてプレーしつつ、新潟県越後妻有地域の棚田を守るための保全活動を行っています。
全国的に類を見ない、先駆け的なプロジェクトを行っているのがFC越後妻有ですね。
ー実際にFC越後妻有のメンバーとして活動されている石渡さんは、どのような思いを持っているのでしょうか。
石渡美里さん:まず女子サッカーという観点からお話しすると、この業界は選手としてお給料をもらいつつ、サッカーをプレーするというのは容易なことではありません。仕事が終わった後にプレーする選手も多くいます。
これにはやはり、日本の女子サッカーそのものの世間からの認知や、活躍の場の少なさが関わっています。
加えて農業という観点からお話しすると、みなさんのご想像通り、担い手の減少が課題としてあります。地方からは若い人材が流出し、高齢化社会が形成されることになって、農業も衰退していきます。
サッカーのクラブチームがどのようにして地域に貢献するのか、愛されるのかというのは、Jリーグの100年構想でも謳われています。そこで、今お話しした女子サッカーと農業の課題を解決するべく、発足したのがFC越後妻有なんです。
FC越後妻有は発足してから6年目を迎えます。
2020年シーズンは新潟県リーグで優勝を果たし、2021年シーズンから、新たにシニアディレクター、GM兼監督を迎え、6名の新入選手が加入、11名のチームとなりました。
サッカーは選手生命が長いスポーツではないこともあり、選手を引退すると仕事を続けられないことも多いです。サッカーチームとして“今”を懸命に走り抜きつつ、選手の今後までを見据えたFC越後妻有の活動は、とても注目されています。
女子サッカーが抱える課題
ーそれでは続いて石渡さんのキャリアについてお伺いしていきたいと思います。まず、石渡さんが女子サッカーを始めたきっかけはどんなものだったのでしょうか。
石渡美里さん:サッカーは小学生の時に始めました。2歳離れた兄がいるのですが、兄がサッカーをしていたこともあり、私も興味を持ち始めました。 小学校のクラブでサッカーをしていましたが、こんなにも夢中になったスポーツはなく、“自分はサッカーが好きなんだな”と感じていたんです。
ですが、中学校へ進学した際にサッカーから離れなければならなくなりました。
単純に女子サッカー部というものがなかったんです。サッカーをする環境がないため、“辞める”という決断をしました。
もちろん男子のサッカー部はありました。顧問の先生に相談をしたところ入部は否定されませんでしたが、入部した後に楽しくサッカーをプレーする想像ができなかったので入部は辞めたんです。
ーなるほど。女子サッカーに対する認知の低さに直面したんですね。
石渡美里さん:そうですね。これは日本サッカー協会も課題として取り組んでいるU13-15ギャップ(中学生年代でのプレー環境)でもあります。
ーでは、どのようにしてもう一度サッカーと向き合うことになるのでしょうか。
石渡美里さん:これも兄がきっかけなのですが、高校生になった頃に、兄の所属しているサッカーチームの試合を見に行ったんです。とても大事な大会で他のチームも意識が高まっている中、兄の所属しているチームは全国大会常連校と試合をすることになりました。
この試合自体は兄のチームが負けてしまったのですが、試合終了ギリギリまでは勝ち越していて、もしかすると!と大きな希望を与えてくれたんですね。そんなふうに兄の一生懸命な姿や、サッカーが与えてくれるポジティブな印象に後押しされて、高校2年生からまた女子サッカーを始めました。
FC越後妻有との出会い
ーでは、大学卒業後のキャリアを選択する時期に、どのような考えを持っていたのでしょうか。
石渡美里さん:大学では中学校の体育の先生になる勉強をしていたので、教師になるというキャリアを考えていました。自分がサッカーから離れたきっかけでもあった女子サッカーの環境を整備したいという思いが強かったんです。
ただ一つのキャリア選択はできておらず、海外に行って本場のサッカー指導者ライセンスを取得しようかなとも考えていました。
ただある時に、自分が女子サッカーを現役でプレーできるのならまずは現役で活動する方が良いかもしれないという考えが生まれたんです。そんなことを考えているときに、大学の先生からFC越後妻有を紹介されました。
ー先生からFC越後妻有を紹介され、その後、新潟の地を訪れたそうですが、その際はどんな印象を持たれましたか?
石渡美里さん:新潟に行って、まず感じたのは“人の良さ”です。
初めて越後妻有を訪れた私に対して、とても気さくに話しかけてくれたり、お土産をたくさん持たせてくれたり、いろんな方を紹介してくださったり、このような地域の方の姿は、“私がなりたい人の姿”だと感じたんです。
もちろん女子サッカー選手としてプレーできることにも大きな魅力を感じていましたが、これに加えて“人の良さ”を強く感じ、入団することを決めました。
–入団当時のお話を聞かせてください。
石渡美里さん:入団時は、選手は2名しかいませんでした。そのため、他の女子サッカーチームと合同で試合に出ていました。
また、農業を行いつつ、サッカーの練習をするということは簡単なことではありませんでした。農業に携わった経験はほとんどなかったので、そもそも何もできないことがとても辛かったです。
FC越後妻有は棚田を活用した稲作を行うのですが、棚田の歩き方も分からなければ、使い慣れない農具にも苦戦しました。
農業においては何をやっても上手くいかないし、サッカーの練習時間も思っていたよりも少なく、入団当時は“辞めたい”という思いを強く持っていました。
農業の伝統に触れ、その必要性を感じた
–思うようにサッカーの練習ができなかったり、農業に貢献できないというフラストレーションを抱えていた石渡さんが、FC越後妻有を離れずに活動している理由はどのようなものなのでしょうか。
石渡美里さん:とても大変でしたがなんとか耐えながら、一年目の稲作が終了しました。
種からお米の苗を育て、田植えをして、田んぼの整備もしつつ、稲刈りをするという経験を初めてしたのですが、この農業を守っていかないといけないという思いが生まれ始めたんです。
もちろん大変なことばかりでしたが、この作業をずっと行ってきている地域の方や、農業を必要としている方と交流する中で、“地域の方が守り抜いてきた農業を衰退させてはいけない”と考えました。
私が入団以前から感じていた地域の人の良さに加えて、守らないといけないという使命感を持つことがモチベーションとなり、今でも活動をしています。
ー日本でもとても珍しいプロジェクトに参加している、石渡さんは今後どのようなキャリアを見据えているのでしょうか。
石渡美里さん:女子サッカー選手としては現在私が妊娠をしているため、またチームに戻れる状況になったら、もっとチームを盛り上げられるように選手として頑張りたいと思っています。
チームとしては、リーグ昇格を目標としてしっかりと結果を残していきたいです。
そして農業に携わる者としては、地域からの人材の流出の減少や、都会からの人材獲得ができるように私たちがまずは活動を続けたいなと思います。
***
農業に携わる人として、そして女子サッカー選手として、2つの面から展望をお話ししてくださった石渡さん。
加えてこんなお話も最後にしてくれました。
「さらに思うのは、やはり私は女子サッカー選手なので、いつもお世話になっている地域の方々に夢や希望を与えられる存在になりたいと思います。私が兄の試合を見て、勇気や希望をもらったように、サッカーには人の心を動かしたり、元気付けたりする力があると信じています。練習場に差し入れをしてくれたり、普段から親しみやすく接してくれる地域の皆さんに恩返しができるよう、精一杯女子サッカー選手として活動していきたいし、農業、棚田の保全活動にも努めたいと思います。」
今回はFC越後妻有に所属している、石渡さんに取材をさせていただきました。
Iターンとして新潟に飛び込んだ石渡さん。大好きなサッカーを通して、女子サッカーが抱える課題のみならず、農業という観点でも保全活動を行っています。
FC越後妻有の今後の活躍がとても楽しみです。
shabellbaseでは今後も多種多様なキャリアを築く方々を紹介しています。
あなたの夢探しやライフプランに役立つヒントを見つけてみてください。
- 石渡美里さん
いしわた みさと|女子サッカー選手
兵庫県出身。小学校3年生からサッカーをはじめ、高校2年生でクラブチームに入る。その後、2016年に農業女子サッカー実業団のFC越後妻有に入団。ポジションはFW。
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